睡眠
人が来ない場所が中々ない。
誰かの執務室は当たり前のように人がいるし、鍛錬場も兵たちが多い。
武器庫もその関係で人がちょくちょく現れる。
府庫も人が時折現れるし、困ったと思ったとき、ふと気がついた。
朝議が行なわれるあの場所に人はいないのではないか。
「…いないな」
確認すると、人の姿は無い。
とは言え、中央で寝るつもりも無く、隅の方へ向かう。
人目につきにくい、死角となりやすいその場所に座ろうとした瞬間、違和感を感じる。
隣の壁を叩いてみると、どうやら、隠し通路でもあるらしい。
「こっちの方がいいか」
独り言を呟いて、壁を動かし、その通路に入る。
石で造られたひんやりした通路の中で、座り込んだまま目を伏せた。
どれくらい経っただろうか。
目が覚めて、辺りを見回す。
とりあえず、報告のために通路が何処に繋がっているのか調べてみようと、進んでみた。
結果、裏手の山に出る。
すっかり月が昇っていて、これは明日も説教コースかと遠い目をしたくなった。
出口をもっと巧妙に隠して、通路に戻る。
疲れているのか、最初に寝ていたその場所に戻り、もう一度ゆっくり目を伏せた。
伸びをして、通路から出る。
今回も長時間寝ていたらしい。
朝議が始まっていた。
「李雪!?何処から現れた!」
君主殿の言葉とついでにその隣に立つ諸葛亮から何処に居たのかという視線。
私は首で隠し通路を示す。
「此処から裏手の山に抜けられるんですが、その間の通路で寝てました」
「…そのようなところで女子が眠るとは、」
軍神殿が渋い顔をして私を見つめた。
これは拙いなと思いながらも、どうしたものかと視線を動かす。
ばっちり徐庶と目が合った。
「やっぱり俺の部屋じゃ眠れないのか?」
「人の気配があると眠れないだけだ。お前の部屋なら四半刻だが、此処なら朝議が始まるまで眠れた」
その程度の違いだ。
睡眠肩をすくめて告げて、朝議の自分が指定された位置に向かう。
少しだけ戸惑った空気があったが、君主殿の言葉によって、すぐにかき消された。