妥協
どうやら、呉と魏が戦い始めたらしい。
想像していたよりは遅いが、展開は全くと言っていいほど想像と変わりない。
ただ、その戦いの内容には少しだけ齟齬も無い訳ではない。
呉の猛攻はすごいものがあるが、そこに策は少ない。
魏もその猛攻を武力で防いでいる印象がある。
どうにもこうにも、軍師の存在が不明なのだ。
策など聞いている暇はない、ということか、それとも、そもそも策を献上していないのか。
「どう見る?」
「どうもこうも、暫く放っておくべきだろ?」
「そうかな?このままだと君にも火の粉が降り掛かってくると思うけど…」
「それが狙いだ。そうすりゃぁ、簡単に巫女姫と話せるだろ」
「お前さんは本当にそればっかりだね」
「…それが、私の運命らしいからな」
鼻で笑うようにして、一度伸びる。
座っていた椅子から立ち上がり、窓に近づいた。
そこから、辺りに誰もいないことを確認して、窓枠に足をかける。
「後は、そっちで決めろ。私は少し出てくる」
「出てくるって、何処に?」
「しかめっ面の軍師がいないところ」
適当な返事をして、窓から飛び降りる。
二階だが、普通に着地することが出来た。
何か後ろから言われていた気がするが、全スルーさせてもらうことにする。
とは言え何処に行って何をしようかという考えは一切無い。
珍しく眠いので、人の来ないところに行きたい。
辺りを見るが、人通りは少ないものの、全くいない訳でもない。
首から下げていた新しく作った仮面を目元に付けて、歩き始める。
「氷雨!」
そう言うときに限って声がかかるのは真理か何かなのだろうか。
振り向くと、そこには、孫家の姫君。
とは言え、理由を付けて蜀所属になっているので、緑色の衣装に身をつつんでいるのだが。
口元に笑みを浮かべて、振り返った。
「どうかなされましたか?」
「これから皆でお茶するんだけど…氷雨もどうかと思って」
首を傾げた彼女に、どうしたものかと悩む。
正直断わりたいが、皆=女性陣だろう。
一応性別女の私からすれば、久しぶりに話をしたいという意識もある。
が、今は非常に眠いのだ。
「もしかして、何か用事がある?」
「申し訳ありません。…後日、私が招待したら、来てくださいますか?」
「勿論よ!皆にもそう伝えておくわね!」
妥協嬉しそうに頷いた彼女は、走って何処かへ向かう。
その背中を見送って、私は今度こそ、人の来ない場所を探し始めた。