首輪
祭は夜まで続いた。
その音を聞きながら、適当な部屋で座り込んだまま眠る。
寝心地は悪いが、寝られない訳ではない。
そもそも前は部屋で寝ることすら珍しかったのだから。
翌日、目が覚めると、未だに騒いだ声が聞こえる。
とはいえ、昨日とは何か違う…。
場所だろうか?城の中が騒がしいようだ。
髪を掻き上げながら、ぼんやりとしたまま適当に入った部屋を出る。
そういや、此処は何の部屋だ?と辺りを見回すと、武器がある。
…武器庫か。
「…朝から騒がしいな、どうした?」
「それが、李雪殿が…李雪殿?!」
目の前にいた軍師の弟子に声をかけると驚いたような返事がくる。
くわ、と欠伸を隠すように右手で口元を覆った。
どうした?と目の前の存在に首を傾げてみせると、そのまま腕を引かれて、見つかりましたーと叫ばれた。
思わず眉を寄せるが、わらわらと集まってくる武将たちにより怪訝そうな顔になる。
「一体何事だ?」
「氷雨殿…!どっか行っちゃったのかと思って、よかったよー!」
「あ?ああ、そうか…確かに巫女姫に会うなら一人で行動した方がいいかもしれないな」
魏に行って、巫女姫の噂のある場所へ向かう。
曹操は人材を求めるタイプだったはず。
既に何人かと対峙した私の特異を見せ、巫女姫の守り人だと告げる。
そうすれば、彼女と会い、話す機会が得られるはずだ。
そこで、彼女と話し、それから、私の未来を決めればいい。
蜀に関わる、関わらないの問題ではないのだ。
これからは呉が魏に攻めこみ、魏も武力を欲するはずだ。
プラン通りに行くかはわからないが、やってみる価値はある。
口元を緩めて、そっと唇を撫でる。
「許しません」
「孔明に許可を求める必要は無いだろう?」
「…あなたは私に借りがあるはずですが…お忘れですか?」
違いますか?とでも言いたげな諸葛亮を鼻で笑った。
近寄り、高い位置にある肩に手を置く。
その首にガリと噛み付いて、耳元で告げた。
「獣は鎖に繋がれない…そうは思わないか?」
「…思いませんよ」
首輪震える声で答えた諸葛亮にくつり、と喉を震わせる。
ならば、人間は鎖に繋がれるか?私の問いに、諸葛亮は口を噤んだ。