集合
それから暫く軍神殿と話をした。
一対一で話をするのが初めてどころか、これほど長く言葉を交わしたのも初めてだ。
予想外に話しやすかったのは、彼がきっと気を使ってくれたのだろう。
とは言え、これ以上はあまり関わりたくないのだが。
「兄者とも話すといい」
唐突な提案に言葉を失った。
頭目殿とは確かに最初に言葉を交わしたのと、出自を説明するために諸葛亮と話しにいったくらいだ。
戸惑いながらも頷いておく。
如何に控えめに言っても尋常ではない人徳を持っている人間とは、あまり関わりたくない。
それを利用している私たちが何をどうこう言える立場ではないとわかっている。
一度頷いてみせて、このままだと彼はきっと機会まで作ろうとするのだろう。
どうしたものか、と口元に手を当てる。
「氷雨殿!…おや、父上もいらっしゃいましたか」
「関索か、どうした?」
「氷雨殿が見えたので、共に祭にいかないかと誘いにきたのです」
ほう、と楽しそうにそして、しみじみと頷く軍神殿。
なんだろうな、すごく嫌な予感しかない。
「氷雨殿、どうでしょうか?」
「…誘いはありがたいが、離れたところで見ている位がちょうどいい」
誘いを断わるのは嫌いだ。
相手の落胆をあからさまに見なくてはならないし、こちらも心苦しい。
だったら受けろという話ではあるのだが、肉体的にも精神的にもキツい状況に自分を追い込みたくはない。
「人間を否定する気はない。だが、私にとっては未だ恐怖だ…特に民はな」
口元に笑みを浮かべながら仮面の無い顔の目元に触れる。
割れた仮面の代わりを作ろうにも、材料が無い。
先にこちらに到着してからも、私は特に民とは関わっていない。
文官たちと話す時もベール的な何かを付けて顔を見せないようにしていたし。
目が青いことをマイナスに思う訳ではないし、ずっと隠していられるとも思わない。
だが、もう暫くは…此処に居続けなくてはならないとわかるまでは。
「…そうですか」
「折角誘ってもらったのに悪い、私の分まで楽しんでくれ」
このタイミングなら、この場を抜けても可笑しくはないだろう。
軍神殿に一礼してから、三男にもう一度微笑みかける。
そのままその横を通り過ぎて、次は何処に行こうかと適当に部屋から出た。
「…関索殿に言ったことは聞こえていたな?それ以外に何か用はあるか?」
集合その場にいた面々に苦笑して告げる。
視線を逸らした彼らに肩をすくめて、足を進めた。