関係
「酒の席の無礼は気にしないものなのだろう?」
唇に笑みを佩いて、首を左右に振っておく。
それから、ただし、と言葉を続ける。
「酒を無理矢理飲まされたことは許さん」
「えっと…あの、もしかして、俺を殴ったのって、それが原因なのかい?」
「当たり前だろ?それ以外に何がある」
告げると脱力した。
不審に思いながらも、これ以上絡むのも可哀想だろう、と徐庶から離れる。
城の中をぼんやり歩きながら、辺りを見回した。
…そういや、なんで徐庶は城の中に残ってたんだろう?
少し疑問に思うが、生憎とそれは外の喧騒にかき消された。
驚くどころか、若干引きさえしたくなるような劉備様コール。
歓迎されているのはいいのだろうが、これは正直、怖いのではないかと。
「…このままだと不味いな」
一応、この勢力に所属している、という形になっている。
だが、ここに根を下ろすつもりは更々無い。
明らかにこのままでは面倒なことになるだろう。
というか、巻き込まれて、強制的に蜀から抜けられなくなりそうだ。
…それは流石に遠慮したい。
帰れないと言われてはいるが、巫女姫は帰る可能性を持っている訳で。
もしかしたら、それを私が使えるかもしれない、と期待しているのだ。
実際に絶望に叩き込まれるまで、きっと私はこの期待を失うことは無い。
だからこそ、巫女姫と話さなくてはならない。
「もう少し、距離を置くべきか」
今の距離は近すぎる。
欲している人間に依存されやすい私だ。
そもそもその関係が成立するには、距離が近いことが前提だ。
これ以上依存されないために、同時に、私が依存しないために。
唐突な距離の置き方は、明らかに違和感を産む。
何かしらの理由を盾に徐々に距離を置いていくべきなのだが、その理由が問題だ。
この目では民に混じることは出来ないだろう。
仕事では徐庶とこれ以上に関わることになるし、鍛錬では趙雲と関わる。
何か新しいものを探すのが一番だろう、とは思うのだが。
早々簡単に見つかるものでもなさそうだ。
…ゆっくり、距離を置きながら探すのが最善かもしれない。
ただ、今まで自分の時間が全く取れない状況であったから、自分の時間を求めたいな。
「どうかされたか?」
「…軍神殿?君主殿と燕人殿と一緒にいたのでは?」
予想もしていなかった存在に虚を突かれた。
聞かれたか、とも思うが別に問いつめられても逃げ道は用意出来るだろう。
打算的な考え方をしたまま、問いかける。
軍神殿はいつものようにそのヒゲをひと撫でしながら、私の隣に立った。
…でけぇなこの人も。
なんて思わず思いながらも、その顔を見上げた。
関係拙者もそなたと話してみたいと思っていたのだ。
穏やかに笑む顔を見て、既に、拙いのかもしれないと気がついた。