狼心狗肺 | ナノ



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その翌日、蜀漢を作りに出発するその日。
本来は呉の見送りなんて存在しないはずだった。
行くなら勝手に行け位の体だったので、私と月英の入れ替わりも出来たのだ。
…流石に頭目殿のときは、見送りがあるだろうが。
そんなことは今はどうでもいい。
何故、今この場に孫呉の軍師4人ともがいるのか、というのが問題だ。
生憎仮面がないので、髪で目元を隠すしか無い。

「氷雨殿、行くのか?」
「はい、お世話になりました」

彼らの前に出て俯きがちに拱手する。
と、後ろから白馬に乗った趙雲が私を呼んだ。
振り返って顔を上げる。

「氷雨、そろそろ出発するぞ」
「あ?…待て、馬か?乗ったこと無いんだが」
「大丈夫だ。交代しながら相乗りで元々話はまとまっていただろう?」
「…ああ、そんな話もしたんだったか…くそ、やっぱ徐庶もう一発殴るか、今度は顔で」

酒の所為で曖昧な記憶がちょいちょいある。
それが最も苛つくのだ。
ち、と軽く一度舌打ちしてから、手を伸ばす。
その手を掴んでから軽々と馬上に引っ張り上げてくれる趙雲は予想外に筋肉がついているんではないかと。

「…とはいえ、子龍、この向きは無しだろ。後ろでいいか?」

横向きに座らされたことにため息を吐きながら、馬の上で趙雲に掴まりながら、後ろに回る。
締まっている腰に両腕を巻き付けて、ほっと一息。
趙雲が都督殿たちに感謝を述べてから、白馬を軽く駆けさせる。

「助かった、感謝する」
「構わないさ、それで、足は大丈夫か?」
「ああ、多分な」

苦笑しながら返して、ホッとした気持ちのまま息を吐いた。
そして、直後、別の面倒に気がついた。
趙雲の腰に掴まるようにしていれば、顔は正面を向けられる。
だが、突然の揺れに対処出来ない。
両腕を巻き付けるようにしていると、揺れや慣れない馬上での体勢は補助出来る。
その代わり、趙雲の背中に頬を押し付けるような形になるのだ。

「…一人で乗れるようになるべきか」

小さく呟いた言葉は馬が地面を蹴る音にかき消された。


到着すれば、ホウ統と軍師の弟子が迎えてくれた。
思わず軍師の弟子を凝視したのだが、彼も驚いたように私を凝視していた。
あ、月英だと思っていたからか。

「おや、氷雨、月英と交代したのかい?」
「都督殿たちが私なら情報を引き出しやすいと考えたようだったんでな、早々に退散してきた」

苦笑しながら告げて、星彩の馬から下りる。
眉を寄せたままの軍師の弟子が一歩近づいてきて告げた。

「体調は…大丈夫なのか?」
「ああ、迷惑をかけたな」

すまなかった、と謝罪すれば、驚いたような顔をする。

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その顔に苦笑しながら、いい加減コイツとも話すべきか、と思い至る。
と、軍師の弟子の方から、あの、と声がかけられた。

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