取引
部屋について、軍師二人を待つ間、趙雲と向い合って話して時間を潰していた。
が、段々喋るのが億劫になってきて、目の前にいる趙雲の手で遊ぶ。
手を繋いでみたり、手のサイズを確かめてみたり。
指を握ってみたり、爪を撫でてみたり。
その掌を自分の頬に当てて、ぼーっと視線を彷徨わせる。
「氷雨、本当に平気か?」
「ん、酔ってるだけ、ねむい…じょしょなぐる」
趙雲の手を離して、座らされている寝台に横になる。
うつらうつらと目を伏せていってしまう私に趙雲は困ったように笑った。
近寄ってくるのはわかったが、酒と睡魔に抗える訳も無く。
ふわりと、ベールが外されたのだけ、何となく感じた。
ぼんやりと目を開く。
変わらず側には趙雲がいてくれて、ゆっくり身体を起こした。
と、私の動きに気がついたらしい趙雲が水を差し出してくれる。
ありがたく飲んでから、徐々に現状を理解し始めた。
「…すまん、子龍。迷惑をかけた」
「構わないさ。それにしても、随分と弱いな」
「よく、見えないと言われたが、明らかな下戸だ」
軽く首を左右に振ってみせてから、趙雲を見上げる。
「どれくらい寝ていた…?」
「そうだな…半刻程度か?宴はまだ続いているが、そろそろ終盤だな」
「諸葛亮と徐庶は?」
「この扉の向こうにいる」
「…呼んでくれ」
部屋と廊下を繋ぐその扉を示してにっこり笑った趙雲が怖い。
廊下って、徐庶ならまだしも諸葛亮もって。
はは、と頬が引き攣ったような笑いを返した。
苦笑を浮かべながら、立ち上がろうとするが、趙雲に止められた。
そのまま趙雲が扉をあける。
宣言通りと言うか、言っていた通りに、徐庶と諸葛亮がいた。
「…元直、後で殴らせろ。顔でも腹でも、好きな方を選んでいいぞ」
「え、それは」
「私が下戸なのお前に言ってあったと思うんだがな?」
違ったか?と首を傾げると、徐庶はぱちりと瞬いた。
その反応に違和感を感じながらも、諸葛亮に視線を向ける。
「それで、孔明…明日のことだが」
「元直と趙雲殿、月英と星彩殿が明日出発する予定でしたが、月英とあなたを入れ替えることになります」
「…大丈夫なのか?」
問いかければ、ええ、と頷く諸葛亮。
それで問題が無いのであれば、私が何を言う必要も無いだろう。
と、なると、後は都督殿にどう説明するか、か。
「孔明、都督殿の対応は全部任せていいか?」
「…はあ、貸しですよ?」
「別に、丸め込まれてもいいなら、なんとかするが」
「そうやって足元を見られるなら、そんなこと無いでしょう。貸しです」
取引きっぱりと言い切った諸葛亮にわかったと肩をすくめる。
詳しく決めるぞ、と話を続けた。