帰宅
唇を割られて、酒が流れ込んでくる。
が、口の端から、幾許か溢れながらも、咽せないために無理矢理飲み込む。
酒弱いってのにね!
しかもコイツ知ってるはずなんだけど。
溢れた酒が首を伝って鎖骨にまで流れていくのが、擽ったい。
「んぅ、」
明らかに酔ってんだろコイツ!
酔ってなかったら、後で殴る。
普通にフレンチキスに持っていってくれてやがるんですけど。
噛んでやろうかと思った瞬間、読まれたのか、怖いなぁと呟きながら離れた。
…え、コイツ素面?まさかの素面?いやいやいや、まさか、ただの酔っぱらいのキス魔だよね?
「徐庶、突然何をする!」
「ごめん、馬超殿。氷雨の面紗を払いたかっただけなんだ」
ふぁさ、と後ろからベールが戻される。
それを片手で戻しながら、降ろしてもらいたいと訴えようと…。
「頭痛い…」
完全に酒の所為だ。
二日酔いにはならないし、別に頭痛いだけで身動き取れるけど。
酒が弱い人間に対するアルハラは、完全に犯罪だと思う。
いや、弱くなくてもアルハラはダメだよね。
すぐに関係ない方向に思考が動いていって、可笑しくなってくる。
ぐたり、と徐庶に体重をかけた。
元々抱き上げたのも、酒飲ませてきたのもコイツの所為だし、いいんじゃね?
「おい、氷雨?大丈夫か?」
「ばちょ、どの…?」
既に視界さえもがふらふらと揺れてきた。
覗き込んでくる彼の髪は白銀と言えばいいのだろうか。
キラキラと輝いていて、思わず手を伸ばす。
「…きらきら」
「酔ってるな」
伸ばした手を止めるように握られて、ぼんやりと、その手を見る。
視界に入っている馬超殿は誰かを呼んでいた。
ぼーっとその先を見ると、ポニーテールの青年…あ、趙雲か。
「し、りゅ?」
「…氷雨?帰るか?」
「かえる…あたま、いたい」
口が回らないし、頭も回らない。
最悪の状況だ、とは思うものの、身体も頭も怠さが勝っている。
趙雲に手を伸ばすと、そのまま徐庶から趙雲に私が移った。
軽々と横抱きをされている事実に唖然とするものの、今日は気にしないことにする。
とは言え、怖いので、首許に腕を回した。
帰宅少しだけ、寝させてほしいと告げて、そのまま目を伏せる。
運の悪いことに、もう一度、同じ悪夢を見た。