狼心狗肺 | ナノ



困惑
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酒宴は舞姫が踊っていたり、楽師が奏でたり、盛り上がっているようだ。
元脳筋軍師は少し睡眠を取ったことで落ち着き始めたらしい。
とはいえ、落ち着いてすぐに動き始めれば吐き気を催すのは、私にとって当たり前のことだ。
もう少し落ち着いてからがいいだろう。

「氷雨?何をしているのですか?」
「孔明か、先ほど呂蒙殿が真っ青な顔をしていたのでな」

言いながら、長椅子を示す。
近寄ってきた諸葛亮は、大きなため息を吐いた。

「全くあなたは何をやっているんですか」
「だが、体調が悪い人間を放って置く訳にもいかないだろう?」
「…あなたには女官が見えないのですか、ほら、そこら中にいるでしょう?」
「ふむ、なるほど。彼女たちに言えば良かったのか」

それからすぐに声を上げ、可愛らしい女官に酔っぱらいを任せる。
この後に既成事実が産まれようと、私には関係ない。
なんて適当に距離を置いて、諸葛亮の隣に並ぶ。
やはり、サイズ的に、魯粛よりは小さいだろう。
が、軍師としてはかなりデカい。
呂蒙と徐庶は元々武が秀でているので、武将換算しているのだが。

「孔明、少しいいか」
「なんですか?」

くい、と引き寄せて、魯粛と都督殿が話していたことを告げる。
ついでに、ハニートラップ的な何かを仕掛けられかけたことも一緒に。
少し悩むような表情を見せる彼にこくりと一度だけ頷いて、ベールを引き下げる。

「先に、士元たちと合流しますか?」
「…そうした方がいいかもしれないな」

赤壁で勝利を収めてすぐ、ホウ統と張苞、黄忠殿、軍師の弟子の4人は荊州に向かっている。
更にそこから西を治め、蜀漢を作ろうと…というか、もう既に手回しは済んでいるのだが…。
その辺は諸葛亮たちの手腕が半端無いのか、それとも、頭目殿の異常な人徳のなせる技か。
どちらもあるのかもしれない、と若干薄ら寒い何かを覚える。
手回しが済んでいるとはいえ、あちらの手が足りないのも事実。

「…この後、話せるか」
「ええ、明日出発する予定の元直たちにも話しておきましょう」
「わかった…私は明日出発するので構わないか?」
「そうですね。出来る限り早く離れた方が良さそうですから」
「頼んだ」

最後にそう告げて、諸葛亮と別れる。
予定が決まった状況で、ズルズルとこの場にいるのは、間違いだろう。
酒をこれ以上入れる訳にもいかない。
まあ、軍師としての立ち位置があるだけ、早抜けに違和感は無いだろう。
会場を見回して、徐庶を見つけた。
衣装的に動きにくいのだが、気をつけながら歩く。
気を抜くと転びそうで不安なので、出来ることなら二度と着たくない。
なんて思いながらも、徐庶の元に向かっていた、瞬間。

「氷雨殿、少しいいか?」

困惑
後ろからかけられた都督殿の声。
気がつかなかった振りをして、徐庶の元へ向かってはダメだろうか。

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