夜風
彼らが唖然としているうちに席を立ち、馬岱殿にもそっと囁く。
「また後で、」
それから、すぐに視線を走らせる。
頭目殿とその義兄弟の近くは不味いだろうから近寄らない。
特に虎鬚の方には特に。
趙雲は明らかに説教が来る。
馬超は馬岱殿が喜んで絡みにくるだろう。
と、なると。
「…魏延殿、いいか?」
「ウヌ」
「ありがたい」
酒には強くないのだ。
既にフワフワとした心地になりつつある状況でこれ以上は面倒。
それに、これ以上酒を飲んだら気持ち悪くなる。
「…肩を借りてもいいか?」
「ン?」
不思議そうにしている魏延殿に笑いながら、その逞しい肩に頭を預けた。
驚いたように身体を固めるが、すぐに仕方ないといいたげに、ベールを少し下げてくれる。
その動きに感謝を示し、瞼の奥に瞳を隠す。
「少しだけ、休ませてくれ」
「…構ワヌ」
ありがとう、ともう一度重ねて、呼吸を意識的にゆったりと変えた。
酒の入った眠りは、浅い。
下戸の所為だとはわかっているので、なるべく酒は飲まないでいたのだが。
中には今回のように付き合いででなくてはいけない飲み会もある。
重ねると、浅い眠りの所為なのか、悪夢を見ることが多い。
今回は、元の世界の友人たちが出てくる夢だった。
覚醒すると同時に手を伸ばし、目の前の誰かを掴んだ。
深呼吸をして、掴んだ腕が太いことに気がついた。
「…すみません、少しぼんやりしていて」
「顔色が悪いな、大丈夫か?」
「少し、夢見が悪かっただけですから。ご心配をおかけしてしまいました、魯粛殿」
苦笑を口元に浮かべ、ベールを引き下げる。
魏延殿にすまなかった、と告げながら、席を立った。
少しでも、心を落ち着かせた方がいいだろう。
まさか、今頃になって友人の夢を見るとは思わなかった。
「酔ってしまったようなので…酔いを冷ましてきます」
「ならば、俺も行こう。女性が一人で出歩くものではない」
「ですが」
「さあ、行くぞ」
今度は親劉軍師が私の腕を掴み、どうやら少し涼めるところに連れて行ってくれるらしい。
連れて行かれた先には特に人影は見当たらない。
宴の喧騒から離れ、穏やかな夜風がゆったりと吹いてくる。
その心地よさに目を細めながらも、ふるり、と小さく身体が震えた。
「寒いか?」
「いえ、そのようなことは」
夜風首を振りながら、ちらりと確認してみる。
…コイツ、明らかに諸葛亮なんて目じゃない位デカい。