狼心狗肺 | ナノ



酒宴
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ちゃっちゃと着替えさせられ、髪も弄られた。
仮面かなにかで隠す予定の顔にまで化粧を施されてちょっと良くわかりません状態である。
ちなみに化粧されている途中も完全に目を瞑っていたので、見せてはいない。
が、何故かそのまま連れて行かれそうになった。

「待て、顔が、」
「あ、忘れてた!ごめんごめん、これ被ってー」

鮑三娘から渡されたそのベールのようなそれは、透けるようなものではない。
ありがとう、伏し目がちのまま告げて、それを瞳と同じ程度の高さに調節し、少し俯くようにする。
そうすれば基本的に誰に目を見られることも無いだろう。

と、思っていた私は、甘かった。
宴=酒の席だ。
酔っぱらいは完全にというか、手に負えないのだ。
すっかり忘れていた。
軍神の息子二人に挟まれ、正面にはその妹と兄がいる状況で、完全に困っていた。
絡まれている。
しかも尋常じゃないくらいに、両脇からべったりされてる。
何がどうなってそうなったのか私に誰か一から十まで説明してほしい。

「氷雨殿、」
「な、何だ?関興殿?先ほどから、その、少し距離が近い、のだが」
「あなたは、いつも凛としていて美しいけれど、今日のような儚さを感じる姿も美しいね」
「関索殿…そういった言葉は、とっておくといい」

というか、話しながら、顔を覗き込むのをやめて。
あと、手を繋ぐような形で片手ずつ両手を押さえ込むのはもう、本当に勘弁してくれ。
彼らは私の常識で言えば、子供に近い年齢ではある。
とはいえ、この世界では彼らは子供ではない、いられない。
だからこそ彼らは飲酒をするし、それによって、かは知らないがこんな何とも言えない行動をする。
…そう思っていたい。

「…関平殿、関銀屏殿。私は、」
「諦めてくだされ」

兄の言葉に妹はにっこりと笑いながらうんうんと繰り返し頷く。
誰か、耳を塞がせてくれ、徐々に新手の拷問みたいになって来たんだが。
ほめ殺しっていうか、羞恥で死ねると言うか。
酒が入った状況の戯れとはわかっているが、若干、顔が赤くなりそうだ。

「ほらほら、氷雨は返してもらうよ?」

馬岱殿がいつもの顔をしながら私を隠すように真後ろから抱きついてきた。
ぐ、と後ろに引っ張られるのだが、両隣の二人は手を離さない。

「いつも馬岱殿ばかり…今日くらい、譲ってくれてもバチは当たらない」
「その通りです。いつも馬岱殿と徐庶殿、趙雲殿で独占しているではありませんか」

ぷくり、膨らまされた頬は年相応なのだが、如何せん、この状況から逃げ出したい。
一体どうすればいいのか。
こんなことで目を使うのは、いかがなものかと思うが、仕方あるまい。

酒宴
まず関興殿にだけ見えるように、首を傾げ、ベールを上げる。
真っ直ぐに目を見ながら、ゆたりと微笑んだ。

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