女性
何度か深呼吸をしてから、俯くように視線を落とす。
指を組んで、何ら変化の無い自分を確認する。
これからどうするべきか、すぐに考えておくべきだろう。
巫女姫は曹魏に攫われた。
彼方でどんな扱いをされるかわからないが、私に対した数人以外は堕ちるだろう。
同時に、孫呉の将兵は、曹魏を攻める。
まるで妄執しているかのように、蜀末期の姜維のような状況になる可能性も高い。
だが、同時に、曹魏も堕ち、消耗するだろう。
「まあ、上手く行った方か…唯一の失敗は巫女姫だが」
不幸中の幸い、とでも言おうか。
本来ならもっと蜀が落ち着いてから、彼女には曹魏を堕として貰いたかったのだが…。
だからこそ、彼女が巫女姫だとバレないように私であるという嘘を流した。
…いや、バレたのは私の所為か。
「氷雨、考え事はそのくらいに」
「…ああ、すまない。ありがとう、星彩」
咎めるような声に、顔を上げると、寝台の脇に立った星彩が水を差し出していた。
それを有難く受け取って、ゆっくり口に含む。
「一日寝ていたのだから」
「心配をかけたようだな…すまない」
「本当ですよ!」
関銀屏殿の言葉に苦笑してすまなかった、ともう一度繰り返す。
個人的な疑問…という程でもないが、(元)孫呉の女性たちまでもが私を心配そうに見ているのは。
月英がにこりと笑う。
「あなたの回復を待ち、勝利の宴を催すそうです」
「…そうか」
宴、か。
血液不足だし、多分一日二日後だ。
宴など出たことも無ければ、出たいと思ったことも無い。
はあ、と軽いため息を吐いて、寝台に横になる。
「準備は任せといてほしーし!」
「…鮑三娘、殿?」
「アタシだって、李雪と仲良くなりたかったんだよ」
ぷくぅ、と頬を膨らませた彼女に不思議な気分になった。
確かに今まであまり関わってこなかった彼女であるが、そう言われるとは思いもよらなかった。
柔らかな気分になって、口元に笑みを浮かべる。
が、ふと気がついた。
「目元を隠すものを用意してもらえるか?…仮面では、生き別れの兄妹説が強固になってしまいそうだからな」
私の言葉に彼女たちは一瞬不思議そうにして、次の瞬間大きく笑った。
女性色は緑系で纏めちゃうけど良いよね?との問い掛けに瞬く。
すぐに頷けなかったのは、私が、自分自身劉備軍の人間だという自覚が薄いからだろう。