故郷
時間を取りながら、蜀の全員に伝えた。
私は巫女姫と同じところの出身である、と。
そして、何人かには徐庶と同じような反応を返された。
受け入れられているのだろうか。
それとも、やはり巫女姫の力の一部が、私に取り込まれているのか。
考えついたその原因かもしれない部分にどうもできず、ただ空を見上げる。
「氷雨殿、聞きたいことがある」
「…関興殿、どうした?」
振り返り、俯くように顔を動かして、答えた。
彼は真っ直ぐと私を見ていて、全てを射抜くようなそんな瞳のまま、不快そうに眉を寄せた。
「あなたは何故そう在る?」
質問の意図が読めなくて、首を傾げてみせる。
私のあり方を聞かれている訳ではない。
理由を聞かれているのだが、それがどういった目的で聞かれているのか。
「ここで…居場所など、本当は作る気が無いのだろう?」
「!」
目を逸らすことは許さない、と言いたげな程に強い視線。
とはいえ、その空気からは否定を感じられない。
疑問と悲哀。
私は驚いて目を見開いたまま、どくり、と心臓の音が大きく響いたのを聞いた。
一瞬で気温が下がったかのような感覚に陥る。
寒さなのか、それとも矮小な自身を見透かされた恐怖か、身体が小さく震えた。
「…捨てられる、訳が無い」
ただ一つの場所。
自分は一人だけなのだから、幾つもの場所を一番上に持ってくることは出来ない。
しかも、それが同時に成り立たない場所なら尚更。
私の故郷はあの世界だけだ。
此方は訪問し、宿を借り、故郷を心に置いた状態での長期滞在は可能な場所である。
だからこそ、この世界は私の本当の意味での故郷になり得ないのだ。
「どうして?」
純粋に、しかし、顔には不満を乗せて関興は首を傾げる。
だが、私にはここで心中を吐露する勇気もない。
誰に言える訳も無く、言えるのならば、きっと巫女姫に対してのみだ。
関興から少しでも逃れようと視線を遮るように、軽く斜めに俯く。
「どうしても、だ」
振り絞るようにそれだけを告げて、彼に背を向ける。
そう、と呟くような返事に安堵も恐怖も出来ないまま、ただ黙った。
どう思われたか、それは関係ない。
ただ自分が不安なのだ。
「氷雨殿、」
「…なんだ?」
「帰る必要は、ない…ここには、あなたを必要とする人間がいる」
故郷その言葉に、呟くような、そう、を返す。
空は朱に染まり始めていた。