違算
星彩から連絡があり、女性陣はほぼ引き入れが完了したらしい。
そりゃぁ、親兄弟が冷たくなって、そんな扱いをされている主人やら幼馴染を見て。
更に恋人まで行かないが、いい感じだった男にあっさり無下にされたとあれば、そうなるだろう。
ちなみに、この世界の二喬は孫家の姫殿の幼馴染で、孫家の長男殿と都督殿とは結婚していない。
まあ、発明家・月英殿も諸葛亮と幼馴染なだけ、というから、この世界は夫婦が幼馴染になっているらしい。
9割方、巫女姫の所為ではないかと思わないでもない。
「あなたが、李雪ね?」
「はい。どうぞ、氷雨とお呼びください」
「そんな畏まらないで、私武将として蜀に降るつもりだから」
手を軽く振りながら衝撃的な発言をする姫君。
その隣でこくりと頷く姫君の護衛殿。
え、と顔を見れば二人は悪戯っぽく笑う。
その後ろであたしもー!と元気よく手を挙げる本来なら都督の嫁殿。
隣で鮑殿がズッ友だしーと言い出しそうな様子でニコニコしているのを見る。
同様に本来なら君主の嫁殿が恥ずかしそうに月英殿の後ろに隠れていた。
「軍師、というよりも外交官の李雪だ。よろしく頼む」
頭が痛くなりそうだが、関銀屏殿も星彩も楽しそうだし、構わないか、と苦笑する。
あんな男たちこっちから見捨ててやるわ。
楽しそうに笑いながら告げた彼女たちだが、その目は何処か淋しそうで。
そっと手を伸ばして、一番近くにいた二喬の妹の方をよしよし、と撫でる。
「無理はするな。蜀は仁の国、泣いたところで咎めなどない。…それどころかたくさんの手が差し出される」
な?と笑いかけた。
彼女たちは驚いてから、顔を歪める。
関銀屏殿が孫尚香殿を、星彩が練師殿を、鮑三娘殿が小喬殿を、月英殿が大喬殿を。
それぞれ寄り添うようにしている。
ここに私がいてもなーと、言う訳で、その場を後にした。
そして、約束した都督殿の元へ足を運ぶ。
この前の密会後、何故か呼び止められ、二人で話したいことがあると言われたのだ。
一体何の話か、と不穏に思わないでもないのだが、会わねば何もわからない。
「ああ、氷雨殿、来てくれたか」
「…え、ええ。周瑜殿からの頼みですから」
口元に笑みを浮かべて答えたものの、違和感しかない。
何故、彼は、私の字で、私を呼んだのか。
警戒を表に出さないように気をつけながら、少し距離を保つ。
「それで、ご用件は?」
私の問いかけに、彼は口を閉ざした。
それから、座ってくれ、と椅子を勧められ、彼と向い合うように座る。
どくり、と心臓が跳ねる。
都督殿はじっと私を見つめてから、微笑んだ。
違算その口から告げられた、相談とも取引とも取れる言葉。
視線を泳がせて、考えさせてほしい、としか返事が出来なかった。