揶揄
魏延殿は、誰よりも近いのだとはっきり自覚した。
馬岱殿も確かに近い。
だが、それ以上に、魏延殿には類似性を見出せる。
それがどうなる訳でもないが、私が精神的に救われることには違いない。
「…士元、最近諸葛亮の機嫌が悪くないか?」
私の言葉に、ホウ統は呆れたようにため息を吐いた。
お前さんの所為だよ、とでも言いたげな顔に、何かしたかと首を傾げる。
最近変わったことと言えば…ああ、なるほど。
「魏延殿か」
「わかってるなら煽るのはやめてくれないかねぇ…」
「煽っているつもりは一切ないのだが」
「一番厄介だよ、やめとくれ。あっしらがどれだけ苦労してるか」
はー、とため息を吐くように告げる彼。
思わず苦笑して、だからといって、なんとかしますとも言い切れず。
どうしたものか、と視線を動かした先に、諸葛亮。
ゆっくりと歩いてくる彼に、ホウ統の服を掴んで逃げられないよう気をつける。
「氷雨、お久しぶりですね?」
「おー…孔明、最近機嫌悪いよな?」
「…大抵はあなたの所為ですよ」
あっさりと告げる諸葛亮に思わず笑う。
「素直な軍師だな…まるでお前の弟子だぞ?」
告げれば意味を理解したのだろう。
一気にその冷静そうな表情を崩す。
羽扇で隠すが目元と耳が赤い。
ホウ統が堪えきれないのか、吹き出した。
「お前さん、嫉妬してたのかい」
「士元、笑わないでください」
冷静に言っているつもりなのだろう。
が、今その台詞を言うということは、内容を認めていることに他ならない。
結果、ホウ統の笑いはますます大きくなる。
「人らしくていいとは思うが…私は君の所有物ではないからなぁ」
「知っています」
「とはいえ、魏延殿に嫉妬する程、私を気に入っているとは思いもしなかったぞ?」
「…誰も、そうとは、」
う、とつまりながらも告げる諸葛亮に笑う。
この反応は多分、年相応なのだろう。
「なるほど。ならば、実は魏延殿と話したくて、私に嫉妬していたのか…だが、兄は渡さないぞ?」
くつくつと笑って返した。
目を白黒させて驚いている諸葛亮は、一拍おいてどういうことですか、と声を荒げた。
揶揄黄忠殿が私たちを見て兄妹のようだと言っていたからな
笑って答えれば、彼は脱力したように肩を落とした。