兄妹
目の前で仮面殿が仮面をそっと外した。
…想像以上にと言うか、普通にイケメンである。
ただ、確実に、異国の方だろう。
それを見て、私は苦笑しながら、自分の仮面を外す。
前髪を上げて、真っ直ぐに彼の目を見る。
「何故、隠ス?」
「それは此方の台詞だ、随分と整っているじゃないか」
「…我、人ト、違ウ」
落ち込んだ表情に思わず、手を伸ばして撫でる。
驚いたような顔をする彼は、年上なのだろうが、そうは見えない。
同じ想いをしているのか、と同族を見るようなそんな感覚。
苦笑に近い笑みを浮かべながら、自分のものではない仮面を手に取ってみる。
私たちが、本当の意味で、この仮面を取ることはないのだろう。
「…重いな」
これを被らねばならなかった彼の過去も。
そして、被ることで人と距離を測らなくてはならない現実も。
「辛イ、カ…?」
「いいや、私は恵まれている方だ」
馬岱殿、魏延殿、星彩…軍師たちに子育て将軍も入れるべきだろうか。
兎にも角にも、この場所の人たちは私たちを受け入れた。
それに私は、此方に来て迫害されても、一年経つ前に彼らに出会えたのだから。
本当だったら、もっと流浪していても可笑しくない。
だが、今は一応此処の一員として、この場にいる。
「魏延殿の、お陰かもしれないな」
告げると首を傾げる彼。
「私が仮面を付けていても何も言われなかったのは、既にあなたが信を置かれていたからだろう?」
「…諸葛亮、我…嫌ウ」
「だが、私は魏延殿を嫌いではないし、黄忠殿だって、徐庶だって、他の人たちだって嫌ってないだろう?」
「ムゥ…」
唸るように黙り込んだ彼は、可愛らしい。
彼の仮面を自分自身の顔に当てるように動かしてみる。
驚いたようにぱちりと瞬いた彼は、私の仮面を顔に当てる。
サイズが明らかに小さい。
思わず笑えば、彼の仮面も私には大きいのだろう、くつくつと笑った。
「そうしているとまるで兄妹じゃのぅ!」
二人して肩を揺らす。
声が聞こえた方には弓使い殿がニコニコしたまま、頷いていた。
楽しそうな彼はそのまま笑って離れていく。
「黄忠殿は、あれだけを言いにきたのか?…と、仮面返す」
「ジジイ…理解、出来ヌ」
言いながら手に持っていた仮面を元通りに戻し、装着した。
唸っている魏延殿に視線を向け、口元だけで笑む。
「さて、共に朝食でもどうだい?兄さん?」
兄妹驚いた顔にくつりと笑う。
突然、イタリア語っぽい何かで独り言を始めた魏延殿に目を見開いた。