依存
暴れはするものの、基本が男と女だ。
武術では勝てようと、基礎の筋力部分では勝てない。
仮面が取られたのを感じる。
前髪をよけられて、思わず身体が固まった。
「ッ放せ!」
手足を動かすだけ動かし、離れようとする。
目を伏せたままの言葉に誰かが近寄ってくるのを感じた。
羽交い締めされていたそれも、同時に離れていく。
座っていた椅子から転げ落ちるように、距離を置いた。
石が、来るのではないか、そんなはずはないのに、頭を庇うように、目を隠すように手を持ち上げる。
「氷雨!」
名前を呼ばれて、ふわり、と正面から抱きしめられる感覚。
振り払おうと動くが、圧倒的な力に押さえつけられる。
「大丈夫、大丈夫だから」
「…だいじょうぶ?」
「そっ、君の居場所の馬岱だよ、だから安心してよー」
ゆっくりとした口調に、動きを止めた。
柔らかなその声は私の落ち着きを呼び起こす。
背中に手を回すようにして、ぎゅう、と握りしめた。
ぽんぽん、とあやすように背中を叩かれる。
自分を落ち着かせるため、深呼吸を繰り返す。
「馬岱の、匂い…」
「だから、その馬岱だってばー」
軽口のような言葉に顔を上げる。
その顔を見れば、にっこりと穏やかに笑っていた。
柔らかな表情には、私を化け物と言うときの激しい感情は見えない。
「馬岱、」
「そうだよ?」
「私の、甘えていい場所」
「うんうん」
ぎゅう、と温かな腕に、かちり、と何かが定まった気がした。
途端、堰を切ったように涙が溢れる。
ぎょっとした顔にも関わらず、私の背を撫でる手は動いている。
「〜〜〜〜〜〜ッ」
「よしよし、辛かったね」
その言葉には、色々詰まっていた。
同情よりも、共感だった。
それが、何よりも安らいだ。
まるで他人の不幸を喜ぶような感情に吐き気さえ感じる。
だが、確かに、それ以上の安心を覚えたのだ。
「君は、どうか、捨てないで」
世界から捨てられるように、消された私は、ここで生きるしかない。
どうしようもないのだ。
泣き喚いて、自傷したって、何をしたって帰れない。
どれ程重く思われても、敬遠されることになっても、彼に縋る他に道が見えない。
「平気だって、俺はいつまでも氷雨の味方だよ」
「そう、か…ありがとう」
依存そのまま意識を失うように目を伏せた。
泣いたのは久しぶりだったな、と目が覚めて思った。