約束
座り込んでいると、目の前に影。
ぱちり、瞬いて視線をあげると、そこにいたのは燕人の娘殿。
「星彩殿、どうかしたのか?」
「いえ、あなたと話がしたいと思って」
告げる彼女に隣に座るように促す。
「どうして、仮面をつけているの?」
「見せられないものがあるから、だな」
「でも、」
「秘密を持たれているようで、気に入らない?」
聞けば、彼女は小さく頷いた。
真っ直ぐな性格の所為で、そう思うのだろう。
まあ、ここまで受け入れられているにも関わらず、自分を隠している訳だから。
不公平な感じはするよねぇ…。
とは言え、私自身はこの青が嫌いな訳じゃない。
ただ、この青を原因に嫌われるのが痛いだけだ。
「…わかった、諸葛亮たちには見せたしな」
仮面を外して、前髪を退かす。
ひゅ、と息をのんだ音が聞こえる。
にこりと笑ってみせて、すぐに隠そうと仮面をつけようと動く。
「綺麗、玉のようで…どうして隠すの?」
「君のように考えてくれる人が少なかったから、かな?…ありがとう」
告げて、仮面で隠した。
前髪も動かして目が見えにくい位置に調整する。
この目が黒かったなら、化け物とは言われなかっただろう。
力は、見られた上で理解されなくては、化け物ではないのだから。
「その目、もう少し見たい」
「え?ああ…夜なら」
そう告げると、彼女は嬉しそうに笑った。
どうやら気に入ったらしい。
今日の夜ここで、と言う言葉に頷いて、その日から、月明かりの下、数分だけ顔を合わせることになった。
夕食時、燕人殿が荒れている。
一体どうしたのかと、将軍たちが集まった。
「俺の星彩が…絶対悪い男に誑かされてるに違いねぇ!」
「星彩に限ってそのようなことは無いだろう」
「うむ、兄者の言う通りだ。星彩はしっかり者だからな」
義兄弟の言葉にも耳を貸さず、怒り猛っている。
その隣では、話の中心である星彩の兄である息子殿も、眉を寄せて考え込んでいるらしい。
大変なことだと思いながら、珍しく軍師たちと夕食を摂っていた。
ふと、正面の無名軍師からじっと見つめられる。
「そう言えば氷雨、最近、夜に何処かに行くよね?」
「ん?ああ、約束があるからな」
そう答えた瞬間だった。
「私は氷雨と会ってるだけよ」
「何ィ?!氷雨って、李雪か?仮面の?そこにいる?」
「私は彼女以外の氷雨は知らないわ」
言いながら、星彩は私の隣に座る。
にこり、柔らかな笑みを浮かべてくれる彼女に笑い返した。
彼女のしなやかな指が、私の前髪をそっとよける。
「やはり、綺麗。隠すなんて勿体ない」
「その言葉だけで十分だ、ありがとう、星彩」
約束その言葉を聞いた星彩の父君と兄君が近寄ってくる。
突如、羽交い締めされて、暴れた。