便乗
「氷雨、いいですか?」
「ん?何だ、孔明?」
食事中にかけられた声に振り返り、答える。
いつもの通りに羽扇を揺らす姿にため息を一つ。
「面倒ごとは嫌いだと、言ったはずだが」
「そう言う察しのいいところ、私は好きですよ」
「…君に好かれても怖いだけだろ?」
一緒に食事していた子育て将軍にすまない、と謝罪して席を立つ。
そもそもあまり食べないこともあり、途中だが気にしない。
臥龍の隣に並んでふと、気がついた。
思わず、一歩離れてまじまじと見つめる。
「何ですか?」
「…背が高いな、本当に軍師か?」
「…確かめてみますか?」
その言葉に疑問を覚えた。
どうやったら確かめられるのか。
じっと見つめて、視てみることも考える。
だが、視たところで軍師かどうかなどわからない訳で。
そうなると、つまり、実際の行動でわかるのか。
「そうだな」
頷いて、腕に触れてみる。
それから背中に回って、背中の広さを確かめてみた。
ひょろい訳ではないようだ。
とは言え、やはり従弟殿程の筋力はないらしい。
「ふと思ったのだが、私は馬岱殿と馬超殿の筋力しか知らない」
「…触ってからそれを言いますか」
「いや、確かめていいというものだから、触ればわかるかと」
そう告げると、にこりと笑った臥龍が私の腕を引いた。
動かないでくださいね、と言われ動かずにいる。
渡された羽扇を手に持ちながら、その作りを確認することにする。
しゃがみ込んだ彼が私の膝裏に腕を動かし、そのまま軽々と持ち上げてきた。
突然のことで思わず目を見開く。
驚き過ぎて筋肉が硬直し、身動きが取れなくなった。
「こうすれば早いですよ」
いつも通りの笑顔でにっこり笑う臥龍に、ひくり頬が引き攣る。
腕が震えている訳でもなし、平然としているのだ。
「…その、降ろしてもらってもいいか?」
「いえいえ、私が軍師だと証明するためにも暫くはこのままで」
「いや、これでどうやって軍師だと証明するつもりなんだ?!」
私の言葉にふふ、と笑うだけの男に驚きながら、どう対応すればいいのかわからない。
彼は一体何をどう証明するつもりなのか。
「というか、それより話を進めよう。降ろしてくれ」
「あなたが振ってきた話題ですけどね」
「それはそうだが、便乗したのは君じゃないか」
「たまには私もあなたと戯れたいのですよ。さて、呉の巫女姫についてですが…」
便乗真面目な話に戻ったのはいいが、それからと言うもの抱き上げられることが増えた。
私で筋力トレーニングをするのはやめてほしいものだ。