説得
ルーティンで日々を過ごした。
毎日流れは一緒だったし、多分、それぞれの滞在時間も殆ど差はない。
そうすることで、軍師たちと子育て将軍、馬族二人、は親しくなったと言うか、わかるようになった。
時折、会っていた燕人の娘殿と発明家殿、軍神の娘殿とは仲良くなれたように思う。
鮑殿は軍師たちとの話し合いで、軍神三男殿の作戦参加に賛成しないだろうということで関われなかった。
ので、どんな性格なのかよくわかっていない。
頭目殿とその義兄弟、またその息子たちは殆ど関わっておらず、未だにわからない。
弓使い殿と仮面殿はよくわからないが、よく話しかけてくる。
軍師の弟子は完全に此方を嫌っているようだ。
阿斗殿は何故か私に懐いたらしい、よく食事後に膝に乗ってくる。
関係としては悪くはない方だろう。
「そろそろか?」
「そうですね…どうですか?」
「此方の下準備は完璧だ、よって、男共の出来によってだな」
「…そのことなのですが」
臥龍がはあ、とため息を吐いた。
何だ?と首を傾げれば、彼は視線だけで誰かを示す。
そこにいたのは、今回の作戦で中心を担うだろう、子育て将軍と無名軍師、そして従弟殿だ。
思わず頭を抑えた。
「説得をお願いします」
「お前も手伝え」
三人を手招きで呼んで、その表情を伺う。
「子龍は真っ先に彼方から接触するはずだから、彼女の手順を知るには一番適している」
「…だが、」
「そして同時に、彼女の力の欠片を秘めている私に接している時間が最も長いから彼女に堕ちることはない」
そう続けても、不満そうな顔をしている。
確かに、惚れている演技など、あまりやりたいものではないのかもしれないが。
それでもやってもらわなくては困るのだ。
「そして元直、君は私からの指示を皆に伝えてもらわなくては困る」
「俺は君と一緒にいる方が気楽でいい」
「お前、それ軍師としてダメだろ、却下。君なら私が言葉少なく伝えても理解してくれるじゃないか」
それこそが必要なのだ、とまっすぐに告げる。
納得していないだろうが、それでも構わない。
最後に、従弟殿を見る。
「馬岱殿は、私の拠り所としてあってもらっている、だからこそ、彼女の元へ行ってもらいたい」
「そんな、あなたはどうするの」
「大丈夫だ、君は最後の砦としてギリギリまで残ってもらう。ただ、過程で趙雲殿と対立することになるが」
む、と少し不満そうな顔に苦笑して、正面から抱きつく。
「仲が良い様子を呉の全員に見せて、印象づけてから、私が一人の様子を見せる」
「なんであなたが、」
「私だけじゃない。他の女性たちも全員同じことをしてもらう」
少し離れて、不満そうに眉を下げる彼に笑いかける。
傷がつかない所為か、何もしたことのないような柔らかな手を持ち上げて、頬に触れる。
そっと撫でながら、顔を真っ直ぐに見つめた。
多分、彼は私の目が青い事実に気がついているだろう。
それでも何も言ってこない彼を、私は想像していたよりも気に入っている。
「これからも甘えることを考えれば、一時的なものは我慢出来るから」
首に腕を回して抱きつけば、ふにゃり、と表情を緩めてぎゅうと抱きしめてくる。
彼の行動は私への同情だ、それをわかっていながらも、依存したのは私が先だろう。
私もまだまだ寂しがりだったらしい。
人間とは酷く弱いものなのだと、何処か歯痒ささえ覚える。
全てを捨ててしまえれば、きっと楽なのだろうに。
説得何故かわからないが、子育て将軍と無名軍師がやっぱり嫌だと言い始める。
隣で臥龍が困ったように眉を下げたのが目に入った。