抱擁
これで、行動の予定を組むのは成功した。
あとで頭目殿に会うべきか、臥龍に聞いておかないと。
「氷雨、一緒に食事はどうだ?」
「ん?ああ、食事か、別に構わない」
日がもう落ち始めている。
つまり、もう既に夜ということだ。
頷いて声をかけてきた子育て将軍の顔を見上げる。
整ってんなぁ、これは恋人とかいても可笑しくないだろう。
従弟殿も整っているが、彼は性格的にいなそうだ。
決して悪い意味ではないが、一般には悪い意味で取られるかもしれない。
「馬岱殿、どうした?」
「やっぱり、趙雲殿ばっかりじゃないの!」
「…馬岱殿も一緒に食事するのではないのか?」
見上げてみれば、ぱちりと瞬いた彼がにこりと嬉しそうに笑った。
結局、頭目殿には食事の場で会い、ついでにその場に軍師たちがいたことで悩む必要は無くなった。
食事を終え、共に食事を摂った二人と別れを告げ、無名軍師と部屋に向かう。
何だか一瞬視線が強くなった気がするが、気のせいだといい。
深く突っ込むつもりはない。
部屋に着くと、寝台を勧められたが断わり、壁に寄りかかりながら座った。
此方の方が落ち着く、と言えば、顔をしかめられる。
元々野宿やらで生きてきた訳で、他人と同じ部屋にいて寝られる訳もない。
身体の疲れは、目を伏せて座り込んでいればある程度回復するし。
「せめてこっちにしてくれないかなぁ…それだと俺が気になって眠れない」
「…わかった」
頷いて、示された長椅子に布団を敷いたものに寝転ぶ。
少しだけ、眠りについたように思う。
すぅすぅと穏やかな呼吸音を聞きながら、私は朝を迎えた。
自分の身支度を整えて、外が騒がしく動く気配を感じてから、部屋の主を起こす。
「起きろ、元直」
「ん…氷雨?」
「ああ、外が活動を始めたからな、起きた方がいい」
真っ直ぐ顔を見つめていると、ビックリしたように起き上がろうとする。
頭突きでもされるのかと思って、身体を思い切り引いた。
ご、ごめん!と慌てたような彼が支度を始めたので少し距離を置く。
臥龍と鳳雛がやってきて、4人で話をしながら朝食をとる。
軍師の弟子に睨まれたが、気にしていられないので、スルーさせていただいた。
暫く話をしてから、彼女の元を訪れる。
視れば、少しは良くなっている、とはいえ、決して、元気とは言えない。
この世界では、楽観視はできない。
彼女が休むのを見てから、子育て将軍の元へ向かう。
この世界の常識を習い、槍を教えてもらう。
夕食を共にする約束をしてから、従弟殿を探す。
部屋にいた彼の従兄に一礼してから、話しかける。
「馬岱殿、後ろを向いてくれないか」
「え?なになに?」
不思議そうにしながらも後ろを向いてくれる彼の背中に抱きついた。
やはり、体温を感じることは安心する一つの要因らしい。
ほ、と息を吐く。
「どうしたの?」
「甘えにきた」
「だったら正面から抱きついておいでよ〜」
楽しそうな声と共に軽々と腕を外され、彼がくるりと向き直った。
抱擁楽しそうに笑いながら抱きしめてきた彼に、部屋にいた従兄殿が不満そうな声を上げる。
従弟が取られたからか、部屋で戯れていたからか、私には判断出来なかった。