うつくしいひと 2/2
文鴦が何処か不満そうに告げた。
ぱちりと一度瞬いて、彼に手を差し出す。
「戦場と常は別物ですからね。それに方天画戟を持つとどうしても性格が好戦的になって困ります」
「確かに、かなり好戦的だったな」
私の手をとって立ち上がった文鴦に笑った。
「ですが、私が好敵手として認めるのは、きっと貴方だけですよ」
「…それは、嬉しいな。鬼神再来と言われた貴女に言われると、ひとしおだ」
告げた彼に肩をすくめて見せて、踵を返す。
子元様の隣に並び、その表情を伺う。
満足げで、しかし、何処か不機嫌そうで。
私を見下ろしたその瞳にゆらり、と炎が見えた気がした。
「氷雨」
呼ばれた名にぱちり、と一度またたく。
その瞬きの間に、私はすっかりと抱きこまれた。
薄い唇が弧を描く。
ハッとしてその瞳に視線を戻せば、その美しく先を見通す茶とも灰とも見える色が隠されていく。
息を呑むような美しさに身動きが取れなくなっていれば、微かな体温がそうっと唇に触れた。
「お前は、私のものだ」
他のものには渡さぬ。
その言葉を耳元で囁かれても、私は彼の美しさに魅入られたまま動くことができない。
ただ目を見開いて、体が言うことを聞かない。
私の主人は、これほどまでに美しい人であっただろうか。
「いいな?氷雨」
いつの間にか私をまっすぐに見つめていた子元様に我に返る。
私はしっかりと頷いて、頭を垂れたまま、告げた。
「私は…名を頂いた時から、ただ子元様だけのものです」