がっぴしんじょう 2/2
「氷雨…?」
「…いえ、失礼いたしました」
美しいこの人が、誰を娶ろうと、その人ごと守るのだ。
子元様が私を思ってくれているのは、わかっているし知っている。
しかし、それを受けることは、私にとって死とも同意だ。
…私は護衛でしかないのだから、人として成長する以前に、護衛として成り立ってしまったから。
だからきっと、私は何があっても彼の言葉には頷いてはならないのだ。
自分に言い聞かせるように、もう一度、心の中でそう言って。
痛む胸に、ダメだと、気がついてはいけないと押し込める。
何を思い上がったことを。
柔らかく目を細めて見返す。
わがままになるなんて、よくないなと小さく苦笑が混じった。
「氷雨、暫し隣にいてくれるか?」
「御心のままに」
彼の隣に立とうとすると首を振られ、きょとんとすれば、腕を引かれた。
ぐ、と抱きしめられて、目を見開く。
向かい合うように抱きしめられて、身動きを止める。
あまりこういうことを他の将兵に見せてはならないと思うのに、反抗しきれない私が、憎い。
将兵にもし私と子元様が…なんて噂が立って仕舞えば、それは子元様にとって痛手となる。
だというのに、私は…なんて浅ましいのだろうか。
「子元様、なりません」
「…何故だ?此処には、私たち以外誰もいない」
「それでも、戦場です」
頑なな私の言葉に、それでも本心を見透かしているとでも言いたげな柔らかな瞳。
口を噤んで、ただされるがままに固まる。
そうだな、と呟くように答えた子元様は一度、私の唇に口付けてから、離れた。