鬼神 | ナノ



せんりこう 2/2


まっすぐに私を睨みながら告げた妹は、立派だと感じる。
そして、すぐに妹はヒョウを投げた。
私を牽制するつもりなのだろう。
急所へとまっすぐに進んでくるそれを、同じように投げたヒョウで全て叩き落す。
地を蹴った妹は私へと近づく。
それに対し、夏侯覇殿は葛藤しているのか、ただただ見ているだけだ。
飛んできたヒョウを、今度は持ち替えた破城槍で弾き、小さく笑う。

「逃げられるなら、逃げるといい。ただし、貴方がこの場から離れれば、貴方の意志は護衛をも捨てるほど強固なものなのだと認め、私は鈴蘭を殺そう」
「っ!?」
「逃げぬのなら、気を失わせるくらいで終わらせてやる」

すう、と眼を細め、破城槍の奥から夏侯覇殿を見る。
妹のヒョウを全て弾いてから、破城槍で押しのける。
命を奪う気概で、ヒョウを投げつければ、上に影ができた。

「っつ、」

手に持っているヒョウでそれを防いで、真っ直ぐに見つめる。
夏侯覇殿だ。
その反応にホッとして口元に笑みを浮かべた。
無心に、ただ彼らを怪我をさせないように…だが、決してそれを気取られないように攻防を繰り返す。
どれくらい対していただろうか、徐々に彼らにも、私にも疲労が見え始めたその時だ。

「氷雨!」

司馬昭様の声が聞こえて、破城槍で大きく彼らを弾く。
すぐに武器を仕舞い、二人に背を向けた。
妹が笑う声が聞こえる。

「…やはり、時間稼ぎでしたか」
「おや、わかっていたのか?」
「姉様が本気で仲権様を討つつもりならば、姉様は方天画戟をお持ちになったでしょうから」
「ふふ…そうだな、私も最初はそうしようとしていたさ」
「…また、司馬師様に命を救われたのですね」

その言葉に笑って見せて、子上様と目を合わせる。
悪戯っぽく笑った彼は、肩をすくめて私に言葉をかけた。

「氷雨の目から見て、夏侯覇は兎か?狸か?」
「そうですねぇ…翁であり、兎、と言ったところでしょうか」
「爺さん?……ああ、確かにそうかもな」

楽しそうに笑って、夏侯覇殿の前に向かう。
私はそれを見て、先に邸へと帰った。
おかえり、と笑って私を迎えてくれた子元様にただいま戻りました、と頭をさげる。

「止めてきたのだろうな?」
「疲労はさせましたが、怪我はさせませんでしたし、私もしておりません」
「よくやった」

くつり、喉を鳴らして笑った子元様に手を引かれ、私は司馬邸へ足を踏み入れた。

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