鬼神 | ナノ



かちかち 2/2


「…さて、この話はどうでしたか?」
「え…どうって、」
「単純な感想で構いませんよ」
「感想…老夫婦の妻…ばあさんが可哀想だな、と…狸を助けて殺されちまったわけだし」
「そうですね…ですが、以前助けた兎は、嫗を殺しはしませんでした」
「…ああ、」
「その兎に、狸は殺されました」

子上様は口を噤んだ。
それから、何かを考え込むようにして、眉を寄せた。
かちかち山のどの立場に誰を置くかによって色々と変わってくるだろう。
だが、そんなことを言わなくても、きっと子上様ならわかってくれる。
これが、ただ一方的な物事を表しているのではない、ということだって、理解してくれるはずなのだ。

「…狸は、何故畑を荒らしていたのか、それはこの話にはありません」
「もし、それが…その理由が…同情するに値するものであったとしても…」
「そうですね…彼の行ったことは許されるものではありません」
「…ああ、そう、だな」
「時には非情とも思える決断であっても、それは後に繋がるのです。逆に有情と思える決断が、後に悲劇を招くことも」
「っ、」
「非情な決断は、心苦しいでしょう。自身の身を削るような感覚さえ、あるかもしれません。周囲から誹りを受けることだって、」

告げれば、ああ…と納得したような顔をする。

「氷雨は、その経験があるのか…?」
「我が一族は、護衛一族といえば聞こえはいいですが、主が主家を裏切れば、我らも裏切り者となります。その裏切り者を斬るのは、同じ一族である私たちです。そして、裏切り者と言われた護衛は主の護衛として、我らを斬ります。一族同士で争うことも、我らには…少なくありません。それから…私が弟を斬ったように…ああして当主が入れ替わるとこもよくあることですし、我らの独り立ちの際はその時の当主と命をかけて斬り結びます。敵としてなった時に、互いを躊躇なく斬ることができるように」
「そう…なのか」
「はい。本来であれば、私はあの時涙を流すことなど許されぬのです」

情けないことですが、そう告げれば、子上様はなんとも言えない表情をする。
確かに、通常の精神であれば理解しがたいのだろう。
一口お茶を飲んで立ち上がった。

「皆、子上様に嫗になって欲しくないのですよ」
「…その言葉だけ聞くと、訳が分からないな」
「ふふ、そうですね…さて、子上様、そろそろ行きましょうか」

にこり、笑えば彼はこくりと一度頷いた。
そしてふと気がついたように私を見て、いつか弟に見たのと同じ表情で。

「また今度、別の話もしてくれるなら、な!」

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