こうせいざん 2/2
張春華様の言葉にしっかりと頷いて、ふぅ、とため息まじりに左手を撫でる。
…まあ、瞬時に判断できただけ良かったというものだろうか。
美しい彼女が私の後ろを指差す。
振り返ればそこには夏侯覇殿と妹がいた。
ああ…こちらもやらなくてはいけないのか。
一度深呼吸して、一礼してその前を離れる。
「氷雨!腕は、」
「大した怪我ではありません」
夏侯覇殿に笑う。
彼はホッとしたような申し訳なさそうな、複雑な表情を浮かべた。
この程度の傷なら、前世の世界ではいざ知らず、この世界であれば1週間あれば完治するだろう。
ちらり、妹に目を向ければ悔しそうな顔で、唇を噛んでいた。
「…わかっているならいい」
「ですが、私は…」
「わかっているのならいいと言っただろう?お前は護衛なのだという自覚があれば、いずれどうとでもなる、今回は初陣だったのだから、ある程度は仕方あるまい」
「姉様は、」
「私の初陣は5つの時に父に連れて行かれた山賊退治だ。さて…妹、二度目はないぞ?後で子元様にも感謝を伝えておけ、子元様が許可を下さったから、夏侯覇殿は傷一つない状態なのだから」
妹の頭をぐしゃりとひとなでして、踵を返す。
はい、という声が聞こえたのを確認して、私は子元様の元へ向かう。
許可を下さったことに対しての感謝を表した。
そろり、と伸ばされた子元様の指は私の左腕をそっと撫でる。
「痛みはないか?」
「はい」
「そうか…良かった」
ホッとしたように目元を和らげた子元様は一歩私に近づいてその腕で私を包んだ。
びくり、と肩を揺らした私に小さく笑って、耳元で心配したぞ、と囁く。
ぎゅうと目をつぶった私に対して、子元様は私の頬に手を当てて、手とは反対側の目尻に唇を寄せた。
「子元様、」
「私も男だ…そんな反応をされると、期待するぞ?」
柔らかな声でそう告げられたそのとき、子元様の後ろから夏侯覇殿と妹の声が聞こえる。
不満そうな表情を見せた子元様は一度私の唇を親指でそっと撫でてから、いつもと変わらぬ冷静な顔で振り向いた。