鬼神 | ナノ



みおくる 2/2


立ち上る煙に気がついたのか、妹を筆頭に子元様、司馬昭様、司馬懿様、張春華様、賈充殿が現れる。
今の自分の顔を見せるわけにはいかないのだ。
利き手に持ったままだった弧刀を見れば、それは血が滴っていて。
ああ、これでは、何をしたかすぐわかってしまうか、と笑った。

「弟は、曹叡様に追いつくために、肉体を捨てた。それだけの話だ」
「姉様が、斬ったのですか…?」
「そうだ。弟を、柳英を斬った。……………敵にも、なっていないのにね」

手に持った竹簡を地面に落として、その上から、弧刀を突き刺そうとして、手が止まる。
ああ、頭がおかしくなりそうだ。
こんな教育、私たちの代までで、きっと十分だ。
それでも、同じ立場になれば、私もきっと、子元様を追う。
その竹簡が、自分自身のようにも見えた。
これを切れば、きっと、私は護衛としての自身を斬ることになるのだ。
護衛でなければ…私は生きられないのに。

「…恨むぞ、父上、母上」

首を軽く左右に振って、竹簡を拾い上げる。
一度深呼吸して、燃え盛る棺を見つめた。

「我が弟、当主・柳英。不肖の姉だが、この柳氷雨、お前を継ごう」

ぐ、と拳を握って、言い切る。
振り返り、小さく口元に笑みを浮かべた。

「お騒がせ、いたしました」
「氷雨…」
「子上殿」
「氷雨、こちらに来い。お前の主人は腹心たる護衛の悲しみも背負えぬような男ではない」

両手をゆるりと広げる子元様に、乾いた笑いか、ただのため息だったのか、わからないが小さく息を吐く。
唇を必死に噛み締めて、こぼれ落ちそうになる涙を必死に抑え込む。
泣く資格などない、私は、私は、

「氷雨、」

響いたその声の方へ、孤刀を投げ出すようにして駆け出す。
そのたくましい身体に抱きついて、額を押し付けた。

[前へ]/[次へ]

[ back to menu ][ back to main ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -