(はじめての世界)
彼女はとても小さくて、それから純粋だった。
私のことを兄と慕い、いつでも側に居るような、そんな幼子。
刃物や銃を持って私のことを罵る人間にであったときは、その身の丈に合わぬ怒りを湛えて、顔を涙でぐちゃぐちゃにしたこともあった。
――にいちゃは、□□のじまんのにいちゃだもん
□□のわがままもきいてくれるし、いっしょにあそんでくれるもん
なんで、わるいこみたいにいうの
なにもしらないくせに
叫んですぐ、お気に入りの白いワンピースで私に抱きついてきた。
私と彼女の年齢差は基本的に6歳、そのときは8歳差だったので、彼女は4歳で、私は12歳だった。
お腹の当たりに頭を押し付けて、ぐずぐずと鼻を鳴らして。
その後真っ赤になった鼻をそっと撫でてやれば、嬉しそうに破顔した。
大好きだと、素直に声を上げる彼女をそっと抱き上げれば、涙の残った瞳はキュッと細められて、柔らかな太陽の香りが漂う。
そんな彼女を奪われたのは、今にも雨が降りそうな、曇りの日。
わたしを罵るヤツらは、周りも見ずに、狙いすら定めずに、刃物を振り回す。
狙っていたのかどうかなど、知りたくもない、だが、その銀色が、柔らかな皮膚を突き破ったのは間違いなかった。
彼女の白いワンピースに、赤く、あかく、染みが出来る。
騒動に気がついた大人が慌てたように、ヤツらを取り押さえた。
駆け寄り、手を伸ばして、彼女を支える。
震える声で名前を、呼べば、■■はぎこちなく笑う。
――にいちゃ、どっかいたいの?
□□ね、まほーの、ことば、しってるよ?
だからね、なかないで?
小さな手をわたしの頬に当てて、いつものようにキュッと目を細めた。
どうにかして助けたくても、わたしには何の力もなく、ただただ、名前を呼び続けることしかできない。
徐々に■■の呼吸が浅くなっているのがわかる。
笑顔がだんだんと弱々しいものになって、
――ね、にいちゃ…おねがい
つぎ、□□が、おきたら、となり…いてね?
ああ、勿論だ、ずっと隣に居てやるから、だから、だから、
最後の言葉が言えないままに、■■は目を伏せた。
それが、最初の別れ。