(じゅっかいめの世界)
彼女は純粋に笑った。
どんなに悲痛な別れ方をしても、何も知らないのだろう、綺麗に、幸せそうに。
今度こそ、今度こそ守るのだ、と自分に言い聞かせて、父から護身術を早いうちから習い始めた。
彼女もやりたそうにしていたが、まだ幼いからと父が首を縦に振ることはなかった。
白いワンピースを外に着ていかないで欲しいと、約束も交わした。
それでも、不安で仕方がなく、私たちが1人になることなどないのではないか、と思うくらいには一緒に居た。
そして、一緒に居ればいるほど、彼女を守りたいと思うようになった。
私を罵倒するヤツらは基本的に追い払えていたし、安心していたのかもしれない。
二人で留守番をしていた、赤い月の日。
男たちが家にやってきた。
■■は白い服を着ていて、血の気が引く。
守るために、守れるように、努力を重ねてきたつもりだった。
なのに、わたしの力では、何人もの大人には勝てない。
それでも■■は守りたかった、兄として、言峰綺礼として、誓ったはずだった。
卑下た笑いとともに振り下ろされた棒に膝をつく。
後ろに庇っていた■■が抵抗するが、捕まった。
ーーきれいにいさん
にいさん、にいさん
叫ぶように自分を呼ぶ声。
ふと、男が、腕の中にいる■■に囁いた。
ぴたりと叫ぶのをやめて、いつもより恐怖に強ばった笑顔を浮かべる。
ーーにいさんは、とってもつよくて、□□のじまんです
だいすきです、きれいにいさん
まもってくれて、ありがとう
歯を見せて、笑顔を浮かべた。
後頭部に衝撃があって、そのままわたしの意識は闇に堕ちる。
気がついたのは、父が帰ってきた後で。
視界の端に、シートをかけられ隠された、ボロボロの■■が映った。
それが、十回目の別れ。