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ハートは矢に射抜かれたアメリカ戦が始まる。
そんな時に、俺たちの控え室に彼女は現れてニッコリと笑った。
その表情は、クリスマスボウルの前の彼女の顔と何ら変わりはなくて。
「何か言いたそうな顔してんな?」
「ふふ、信じてますよ。皆さん」
そう歌うように朗らかに、彼女はただ告げる。
「日本代表は、世界一だって」
くすくすと小さく笑みさえ零しながら、圧倒的な信頼を見せる。
俺たちが負けることなんて想像もしていない。
ただ子供のように盲信している、というわけではなく、アメリカの力を認めて、それでもなお。
日本代表が、世界で一番なのだと、彼女にとってはそれは紛うことなき真実なのだと。
受け取る側のこちらが、怖気付いてしまいそうなほどの信頼。
だが、泥門の彼らはそれを当然として受け止めている。
強気に笑って、おう、と返事をしている様子に小さく笑みが浮かぶ。
「当然だろう?俺たちは、日本代表なんだから」
答えて見せれば、彼女はより一層嬉しそうに笑う。
その笑顔を引き出したのは、俺であり、全員であり。
彼女のおかげで気持ちで負けることなどなくなった。
ただ、勝つだけだ。
みんな一人一人が彼女に声をかけてから控え室を出て行く。
ベンチには入れない彼女は、観客席から俺たちを見ていてくれる。
「頑張ってね、みんな」
蕩けるような甘い顔は本当は俺だけに、なんていう感情は、この場の何人が持っているのだろう。
一人一人に言葉を返す彼女が愛おしい。
「猛くん、ミスターに勝ってきてね」
「もちろんだよ」
ひらりと手を振って見送ってくれた彼女の言葉に借りを返すと決意を新たに光溢れる会場へと向かった。
延長戦を勝手にやった試合も終わった。
彼女は半分くらい泣きながら、俺たち全員を迎え入れてくれる。
「おかえりなさい、お疲れさまでした」
口々にただいま、と答える俺を含んだ選手たち。
せわしなく俺たちの世話を始めた彼女は、くるくると動き回った。
ふふ、と笑いながら、一人一人をちゃんと見てくれる氷雨は嬉しそうで。
「今日はゆっくり休んでね。明日からは、アメリカ観光だよ」
「えっ」
セナくんがびっくりしたように告げる。
いたずらっぽく笑った彼女は、ふふふ、と笑いながら、各学校からもらった許可証を見せる。
そこには、何故か今日から一週間ほどの余裕を持った日にちが記されていた。
「せっかくみんなでアメリカに来たんだもの。思い出作りしたいから」
「テメェ…そんな暇どこにあった?」
「えー?パンサーくんにお願いして、そのまま五芒星の皆さんにおすすめ聞いたくらいだよ?」
ヒル魔氏の言葉にニコニコと笑う彼女に、勝てそうにない。
まさかとは思うが、と阿含氏が問う。
「奴らになんて聞いた?」
「アメリカで素敵な場所を教えてください、って」
「…氷雨姐って、そういうところあるよね」
「え、何、そういうところって。ちょっと、鈴音ちゃん?!」