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会いにきました新年を大和と迎えた。
それから、父さんたちに連れられて、泥門に向かう。
泥門高校の部室に一瞬、間違えたかと思うが、奥から氷雨さんが出てきた。
「あら、もう来られたんですね。紅茶と珈琲はどちらがお好みですか?」
にこり、笑いながら、彼女は髪を左の肩辺りで結ぶ。
その動きはどこか艶やかで、息が詰まりそうだ。
だが、此方の反応を確認せずに、奥でマグカップを出し始める。
俺たちの分4つと、後から来るだろう2つのマグカップ、あと、色が違う1つ。
と、そこで俺たちに気がついた様子で、首を傾げる。
「もしかして、椅子出てませんでした…?」
「あ、いや、出てるよ」
大和が慌てたように答えて、俺に視線を向ける。
俺は父さんを見て、父さんは関東協会長に目をやった。
そんな俺たちを不思議そうに見ながらも、此方に近寄る。
何度か瞬いて、とりあえず、全員の視線を追ったらしい。
「珈琲と紅茶、どちらがよろしいですか?」
「………珈琲を頼む」
低い声で絞り出すように言われた言葉に、彼女は微笑んだ。
席に着いた俺たちに飲み物を出して、俺と大和の前にケーキを出す。
「鷹くんのお約束の品ですよ」
「…ほんと?」
「本当です。大和さんのは最近女の子に人気の美味しいケーキ屋さんで買ってきました」
少し頬を膨らませて、俺を見る。
驚きながら、そのケーキに視線を落とすが、隣の大和のケーキと比較して遜色のない出来だ。
小さく頂きます、と食べ始める。
…おいしい。
伺うように見てくる彼女に小さく笑いかける。
「美味しい」
「本当?良かったです」
どういうことか気がついたらしい大和に奪われないうちに、彼女の手作りケーキを食べきった。
面白そうな顔をしながら俺を見た父さんが、ふと、思い出したように声をかける。
「氷雨ちゃん、だったかな?」
「はい、なんでしょう?本庄さん」
「君もアメリカに行くんだろう?」
「…どうなんでしょう?」
お手伝いしていいなら、行きたいなぁと思いますが…ユースじゃないんです。
困ったように、眉を寄せる。
「出場じゃなければ問題ない」
「あ、そうなんですか?なら、行かせていただきます」
一回、行かなきゃいけない用事もありますし、と彼女は笑った。
それから、すぐに気がついたように、奥へ向かう。
彼女が振り返ると同時に、二人が部室に入ってきた。
「二人とも、紅茶で良いよね?」
「え…あ、はい」
「…なんで氷雨さんが?」
「あらあら、私が妖一さんのお手伝い中心なのは知ってるじゃないの」
言い切った彼女は、手に持ったカップを二人に渡して、部室の端っこに座る。
メンバー選出を任されて、俺たちは目を合わせた。
そんな俺たちを見て、彼女は楽しそうに笑う。
「関東の皆の予定なら知ってるから安心してね」