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決まった時間、決まった行動あ、と気がついて、携帯電話を持つ。
大和や花梨の視線を感じるが、無視して、電話を開いた。
同時に、着信音が鳴る。
通話ボタンを押して、耳に当てた。
「ごめん、」
「大丈夫ですよ、練習もあるでしょうし…今平気ですか?」
「うん、大丈夫。それで、そっちはどう?」
「大きな行動はまだまだですけど、それとなく、予定は聞いてます」
その返事に、少し、眉を寄せる。
嫌な予感がして、思わず、言葉にしていた。
「どういう風に?」
「え?普通に、3月までに大きな予定ありますか?と」
「…そう」
「駄目でしたか?」
「いや、駄目じゃない、けど」
駄目ではないけど、駄目だ。
明らかに、それとなくすぎるだろう。
なんて思っても、口にすることができない。
俺が黙っていると、どう思ったのか、会話が続けられる。
「皆さん予定は空けてくれるそうです」
「ああ…うん、そう」
気の抜けた返事しかできなかった。
彼女の周りにたくさんの男たちがいて、独占欲に近いものを見せているチームメイトを見て。
関東の主力たち全員のアドレスを知っていた時点で、怪しいとは思っていた。
だが、此処までとは。
予定を“空けておく”のではなく、“空けてくれる”つまり、他の予定をずらすことまで可能だと。
彼女のためなら他人に頭を下げるのも、できると言うことらしい。
「じゃぁ、あとでそっちに行くことになるんだけど」
「宿泊場所の手配はできますから安心してください」
「ありがと」
「いえいえ、ただ、食事は私が作ることになってしまうんですが…大丈夫ですか?」
「え…あ、大丈夫、です」
意図せず、敬語になってしまった。
が、彼女は嬉しそうに、嫌いなものとか好きなものは前もってメールか電話してください、と続ける。
なんて自由なんだ、と思うが、その自由さは嫌いじゃない。
「手料理、楽しみにしてる」
「はい!頑張りますね」
ああもう、こんな風に予定を聞かれたら、確かにデートの誘いだと思っても仕方ない。
しかも、予定を空ける、と応えれば、嬉しそうにあの笑顔で、頷くのだろう。
そしてありがとう、とまた連絡します、と。
…何かイラッとした。
「氷雨さん、」
「なんでしょう?」
「次は俺から電話するから、」
「はい、待ってますね」
彼女の笑顔が目の前に浮かんでくるようで。
電話を切ったあと、ぼんやりと思う。
世界大会があるからこそ、定期連絡役として、俺と彼女は電話している。
でも、この大会が終わったら、彼女と連絡することはできるのだろうか…。
また逢いたい、と伝えれば良いのだろうか。
そう思いながら、視線を動かす。
「大和、そのすごい目はどうにかしてもらえる?」
ジト目で見ていた大和にそう言って、携帯をしまった。