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はたからみたら丸わかり午前中は楽しそうにしていたヒル魔君が、午後になるにつれて不機嫌そうに変わる。
主に、パソコンを見ていたり、何か確認しているとき。
なんて、言ってみるが、理由はわかっている。
氷雨さん、だ。
午前中と放課後の練習は参加します、と言っていた彼女はどうやら、午後約束があるらしかった。
すごくびくびく、ハラハラしながら、いってきます…と消え入りそうな声で。
私が氷雨さんから聞いた話だと、この間の巨深ポセイドンの筧君と仲直りしてくる、と。
「ッチ、何ヘラヘラしてやがる」
机を指で叩きながら、苛々した様子で吐き捨てている。
その様子に同じ白組のメンバーも近寄れない。
と、傍らの携帯電話が鳴る。
どす黒い気配が鳴りを潜めて、怪訝そうな表情になった。
「なんだ?」
声は平常通り、暫く黙って相手の話を聞いている。
「んなもんいいから、さっさと帰ってこい!」
怒ったように聞こえるがいつもより勢いがない。
そして、さっさと帰って来い、ということは、氷雨さんか。
と、ヒル魔君が電話を切ってすぐ、私の携帯が震える。
確認すると氷雨さんからだ。
「もしもし?どうしました?」
「あ、まもりちゃん。確か、テーピングいくつか予備が無くなってたでしょう?」
だから買っていこうと思ったんですけど、どの種類の、どの太さかわからなくって。
と、言われる。
確かに、言われてみれば減っているものがある。
ただ、伸縮性の方だったか、非伸縮性だったか、一瞬では出てこない。
えっと、と考え込んでいると、携帯が取り上げられる。
「いいから早く帰って来いっつってんだろうが。アンダーラップだけ買って来い」
ぴ、と電話を切られて、返された。
もう怒るのもどうでも良くなって、はいはい、と電話を受け取る。
すぐに氷雨さんから謝罪のメールが来る。
大変だなぁ、と思う。
きっと氷雨さんがいなかったら、私はもっとヒル魔君と対立していたんだろうな。
なんて、思っていれば、騎馬戦が始まるから手伝え、と命令される。
もう一度、はいはい、と返事をしながら雪光君と用意をしてから向かった。
「ただ今戻りまし…どうしました?」
氷雨さんが部室に入るなり、速攻ヒル魔君に詰め寄られている。
両手を体の前に出して、ヒル魔君の体を抑えるようにしている氷雨さんは驚きながら、辺りを見回した。
が、私を含め誰も理由はわからない。
全員が全員、首を左右に振る。
「妖一さん…?」
「携帯出せ、あと、プリクラ」
片手にライターを持って、睨みつけるように氷雨さんを追詰めている。
彼女は首を左右に振り、ダメです、と告げた。
「これは、私と駿さんのお友達記念です」
鞄を抱きしめるようにして、氷雨さんは唇を尖らせる。
キッと対抗するように視線を鋭くしている。
ふと、セナが私に話しかけた。
「ねえ、まもり姉ちゃん、駿さん、って筧くんのこと?」
「うん、そうみたい」