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そこがまた可愛いなんていったら拗ねるかな待ち合わせ場所に、約束の30分前に到着してしまった。
いくらなんでも早すぎるだろう、と自分自身にため息を吐いて、近くの本屋に入る。
と、そこに詰襟のワンピースを着ている氷雨さんを見つけた。
「氷雨さん?」
「あ、駿さん、早いですね」
「氷雨さんはいつから此処に?」
「さっき来たばかりです」
ふふ、と微笑む彼女にホッとして、じゃぁ、早いですけど移動しましょうか、と声をかける。
この間より大人っぽい表情の氷雨さんにドキドキとしながら、彼女の手をとった。
驚いたようにしながらも、照れたように俺を見上げる。
ゆっくり歩きながら、目星をつけていたカフェに向かった。
「カフェで平気ですか?」
大丈夫ですよ、と返ってきた笑顔に、よかった、と頷く。
ついたカフェでは、少し奥まったところに座った。
飲み物が目の前に準備された状態で、一度息を深く吸う。
ゆっくり息を吐き出すと、俺の覚悟に気がついたのか、氷雨さんが真剣な顔付きになった。
綺麗にマニキュアが塗られた指を組んで、テーブルの上に置く。
その手が、少し震えているように見えた。
「泥門戦の前に、知ってました。氷雨さんが泥門関係者だって」
それを知った上で、あのメールを送ったんです。
色々考えて、悩んで、一番最初に伝えるべきことはこれだと思った。
氷雨さんはホッとしたような、今にも泣きそうな、そんな顔をする。
片手を伸ばして、組まれている両手に触れた。
緊張からかひんやりと冷たくなっている。
「その上で、泥門を倒しにいきました」
負けて悔しくないなんて言いませんが、全力は尽くしました。
言葉を続けて、小さな手を包む。
「今回の試合をやっていなければ、氷雨さんは俺と縁を切ろうなんて考えなかったでしょう?」
戦う以上勝ち負けがあるのは当たり前で、対戦相手になったのは時の運。
それに、俺たちも、彼女も、自分の学校についての情報はほとんど漏らしていない。
あるとすれば、既に知られているような情報や、見ればわかる程度のもの。
俺が思っていることを一気に話す。
全部聞き終わって、氷雨さんは眉を下げて笑った。
頷いて、俺の手をぎゅう、と握る。
「ありがとう」
「…いえ」
首を左右に振って、彼女をじっと見つめた。
氷雨さんも俺を見返すが、何も言葉を発しない。
見つめ合っている状態に恥ずかしくなったのか、彼女の手がだんだん温まってくる。
「えと、このあとは、どうしますか?」
何度か瞬いて、きょとんと首を傾げる。
…考えてなかった。
「氷雨さんは、行きたいところありますか?」
「じゃぁ、折角なので、」
そう言って彼女が俺を連れて行ったのは、ゲームセンター。
キョロキョロ見回して、目的のものを見つけたのか、こっちです、と笑う。
「今日は、うーん、お友達記念です」
無邪気に笑いながら、そう落書きする氷雨さんに、これからだ、と自分に言い聞かせる。
楽しそうに笑っているそれを、記念だからを言い訳に待ち受け画面に設定した。