18
おねだり上手な君、ねだられ上手な俺俺の言葉に、氷雨さんは足を止める。
それから、泣きそうな顔で笑って、うん、と小さく頷いた。
「ありがとうございます、駿さん」
同時に浮かべられたふわりとした笑顔。
一瞬で体中の血が逆流したかのように感じて、ただ、視線を逸らす。
ちらり、彼女を確認して、深呼吸。
「協力なら、いつでもします」
「…じゃぁ、クリスマスボウルが終わったら、お誘いしてもいいですか?」
その言葉に、こくり、頷いた。
確認した顔は嬉しそうだが、どこか気落ちしたようにも見える。
不審に思って、声をかけた。
氷雨さんは、口を開いてから、何も言わずに唇を噛み締める。
少しだけ俯いて、すぐに顔を上げた。
その顔は諦めたような微笑みで、思わず眉を寄せる。
「でも、断ってくれてもいいですからね」
「え?」
「今約束したからって、絶対に協力しろなんて言いませんから」
では、失礼します。
頭を下げて、俺が何かを言う前に彼女は背を向けた。
追いかけて捕まえることもできたが、俺にはそうするだけの気力が既に無くなっていて。
拒否、されたのだろうか。
考えてみるが、俺は彼女じゃない。
答えが出る訳でもなく、そのまま学校に戻る。
途中で、氷雨さんからのメールがあった。
『私のことは、絶対に気にしないで、ただ、試合に集中してください』
心配されなくても、そのつもりだ。
高さで圧倒しているとは言え、勝敗は五分五分。
他の何かに意識を割いている時間はない。
だからこそ、彼女はクリスマスボウル、と言ったのだろうか?
ふと、不思議に思う。
あの言い方はうちの学校が勝ち抜くと信じていた訳ではない。
頑張ってください、とも、彼女は口にしなかった。
「そういうことか、」
答えは一つ。
対戦校の関係者、ということだ。
8強のガンマンズ、フィッシャーズ、ファイターズ、スパイダーズ、パイレーツ、ホワイトナイツ。
それから、今度の対戦相手のデビルバッツ。
「ンハ!どーした?」
「水町か、いや…氷雨さんが、対戦校の関係者だとわかっただけだ」
告げれば驚いたような顔をして、それから納得したようにああ、と頷いた。
その反応を不思議に思って問いかければ、何でもないことのように告げる。
「だって、携帯のアドレス帳見せてもらったとき、グループで泥門だけ分けられてたしー?」
「んなっ、」
「あれー?筧知らなかったっけ?」
いつも通りの能天気な顔をしている水町にイラッとした。
俺がその事実を知らないと氷雨さんは気がついていて。
だからこそ、協力しなくてもいいと告げたのだろう。
俺を騙している状態になっている彼女は、きっと、今週末のことで心を痛めたのかもしれない。
とりあえず、一発水町を殴る。
それから、携帯を取り出して、メールを起動させた。
少し考えて、彼女に伝える。
『アメフトでは敵だとしても、俺は、氷雨さんの思い出作りに協力したいです』