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フラグは迷ってる間に折られます「はい、えっと網乃側です。王城の方達に一席譲ってもらいました」
嬉しそうに笑った彼女は、その後すぐに眉を下げた。
不満そうに頬を膨らませて、不機嫌そうな声になる。
「そんなことしてません。私の話をしてたところです」
それから黙り込んで、話を聞いているようだ。
相づちを打ちながらも、フィールドをじっと見つめている。
一瞬、すごく優しく笑って、すぐに苦笑に変えた。
「大丈夫です。そんなに弱くありませんよ」
ちゃぁんと、皆さんを見守ってますから、言いながら、泥門ベンチに手を振る。
と、なんだか複雑な手の動きをして、笑って電話を切った。
すぐに高見さんを真っ直ぐ見つめ、首を傾げる。
「ええと、私の戸籍が最近できた理由ですよね?」
「あ、ああ」
彼女の切り替えの早さについていけないのか、戸惑うように頷いていた。
「私も詳しいことはよくわかってないんですが、」
苦笑して続いた話を簡単にまとめると、こうなる。
ある日、彼女は交通事故にあったらしい。
が、その相手は色々と偉い方で、しかも日本だけではなかったとか。
で、色々本気で問題が起きそうだったけど、氷雨さんは記憶喪失になっていた。
それをいいことに、新しい戸籍を渡して、ついでに“あの蛭魔”に保護されて。
結果的に今、過去がないので碌な仕事に着けないこともあり泥門を手伝っている。
「事実は小説よりも奇なり、と言いますが、私の場合は何とも運がなくてですね」
まあ、妖一さんにお世話になれたことは、運がいいのかもしれませんが。
笑った彼女に、思わず全員で首を左右に振った。
「記憶喪失ですか」
「はい、実は自分が何歳かも知らないんです。書類上は二十歳ってことになっていますが」
なんだか、高見さんとお話ししてると自分はもっと子供なんじゃないかと。
くすくすと笑いながら、ビデオカメラを構え始める。
ふと、進が彼女をじっと見つめた。
首を傾げながら見返した氷雨さんにおもむろに手を伸ばす。
「…肉体としては、俺たちとそれ程変わらないと思います」
言いながら、不思議そうな顔をして、彼女の体に触れる進。
触り方にいやらしさは感じられないが、男としてどうかと思うよ。
「私は運動してないので、贅肉だらけですよ?その分柔らかいとは思いますけど」
「…ふむ」
真剣な表情で氷雨さんのお腹の辺りを触っている。
困った顔をしながらも止められないのか、カメラを録画状態にしたままちらりと、進を見た。
その視線を受けて、何を思ったか、じっと目をあわせる。
「…腕を触ってもいいですか」
「え、っと、構いませんけど…そんなに興味深いですか?」
こくり、頷いて、無骨な手で肩までシャツを捲ってもらった腕全体を一度撫でる。
腕の太さを測るように手首から二の腕までを掴みつつ、登った。
見るからに柔らかそうな二の腕の内側を揉むように手を動かす。
カッと目を見開いた進に驚いたのか、体全身に力が入った氷雨さんだが、本当に運動はしていないのだろう。
ふにふにと触られているままの腕の筋肉は、カメラを構えているときに使っている部分と変わりはない。
「…これは、」
「し、進さん、試合始まりますよ。試合に集中しましょう、ね?」