09
隠された言葉の意味日本に帰ってきて、学校が始まった。
学校じゃ、氷雨さんに会えるのは部活の時ぐらいで。
この間まで毎日一緒にいたと考えると寂しく思ったりすることもある。
もちろん、練習中はすっかりそんなこと頭から抜けているが。
「おい、十文字練習行くぞ」
「ああ、」
声をかけられて向かった部室で、俺たちは固まった。
何故か女三人でチアの衣装を着ている。
いつも通りなのは一人で、後二人は恥ずかしそうにしている。
一瞬理解ができず、とりあえず、扉を閉めた。
中からわめき声が聞こえるが、口元を抑えて扉から視線を逸らすのが精一杯だ。
「純情だな」
「だな」
戸叶と黒木がニヤニヤしているのがわかり、とりあえず、一発ずつ殴っておいた。
その日から毎日、氷雨さんは泥門に来ていた。
いつものように部活時間だけではなく、朝からずっと、部室にいる。
毎日毎日、何をやっているのかと言えば、パソコンやテレビに向き合っていて。
練習のときにはビデオを撮っていたり、マネージャーの手伝いをしている。
「氷雨、今日の分はできてんのか?」
「できてますよ。一応、明日の分も終わらせてあります」
困ったように笑って、ノートパソコンを蛭魔に差し出してる。
蛭魔はそれを確認するように見て、にやりと笑った。
よくやったとでも言いたげな表情に氷雨さんは嬉しそうに笑う。
が、突然思い出したかのように動きが止まった。
「どうした?」
「買い出し、忘れてました。…今日のお夕飯の材料が足りません」
顔面蒼白になって、何を言い出すかと思えば。
そんな俺の心は蛭魔と一致したらしい。
「何言ってんだ、テメェ」
「妖一さんも、それに皆してそんな顔で見ないでください」
前言撤回だ。
どうやら部室にいる全員が同じ表情をしていたらしい。
「私にとっては死活問題ですよ」
だって、私は妖一さんひいてはデビルバッツのお手伝いが存在理由ですから。
“手伝いができないのなら、存在する意味がありません”
そう続けられているのだろう言葉を、泣きそうな笑顔で誤摩化す。
蛭魔でも、取り除くことができないでいる闇の部分。
彼女が俺たちに一線を引いて接している理由に大きく関わっているのだろう。
「さぁ、此処で止まっている暇はありません。練習しましょう?」
いつも通りの笑顔を浮かべて、さっきのことをなかったように振る舞う。
と言うよりも、そうにしか行動できないのだろう。
色々言いたいことはあった。
でも、俺よりも一緒にいるヤツの方が、原因でもあるヤツの方が、それを伝えるのには一番適している。
そう思って、口を噤む。
足を踏み出して、氷雨さんの頭に手を置いた。
驚いたように俺を見上げる顔に口元を緩めてみせる。
「これからも、手伝ってくれよ」
軽く叩くようにして、セナたちに声をかけて部室を出る。
小さく、頷く声が聞こえた。