07
舌の火傷あの日から暫くトラックにバイクと氷雨さんが乗っていた。
本人は俺たち壁組に本当にごめんなさいと、何度も謝っていた。
バイク分も重くなったから、と言うのが理由だろう。
とはいえ、彼女が俺たちにいつも気を使っていてくれたのは全員気がついていたから、誰も不満は言わない。
もちろん、と言えばいいだろうか、体調が戻った彼女はすぐにまたバイクで後衛組の補助に行った。
「ついにガソリン尽きたか!!」
その言葉に氷雨さんも、あ、バイクもヤバめ、と続いた。
適当な車を止める、と言っている姿を横目で見る。
セナたちの手法が失敗した結果、マネージャーたちがやることになった。
あっさり止まった車からガソリンを奪うが、一台ぐらいじゃ、足りないらしい。
「氷雨姐も手伝って!」
その台詞と共に何か手渡されている。
それをそのまま受け取って、トラックの影に入った。
影から出てきた氷雨さんは、真っ白のワンピースを着ていて、白い鍔の広い帽子を被っている。
化粧もしたのか、おっとりした大和撫子になっていた。
「鈴音ちゃん、これでいいですか?」
「ばっちりだよ、氷雨姐!!」
そのまま、マネージャーたちも隠れ、氷雨さん一人がぽつんと残される。
手頃な石に腰掛けて、俯いている姿が演技だとわかっているのに、近寄りたくなった。
車の音が近づいて、氷雨さんは立ち上がって、手を振る。
あっさりと止まった車から見えないように手を挙げて、蛭魔を止めた。
それから、暫く話していると、その車が出発する。
にこり、笑って手を振って車を見送った。
「何した?」
「え?この先のガソリンスタンドで買ってきてくれるって」
首を傾げた彼女の言葉を信じて、1時間程待つ。
先ほどの車が帰ってきて、かなりの量のガソリンを車から降ろした。
その男たちに笑いかけ、恥ずかしそうに何事かを伝える。
一瞬動きを止めた男たちが辺りを見回して、俺たちの方を見てから、慌てて車に乗り込んでいなくなった。
「この位あれば足りますか?」
「…何したんだよ」
「お礼として遊んでくれ、って言われたから、友人に許可を取らないと、って皆の方を見ただけです」
で、空気呼んで妖一さんが銃器を広げてくれたからね。
ニコニコと楽しそうに告げた彼女は、ガソリンを自分のバイクに入れにいった。
それからも地獄の特訓は毎日続き、誰も脱落せず、ラスベガスに到着した。
へたり込んでいる俺たちを後目にマネージャーと氷雨さんは彼方此方行ったり来たりしている。
俺たちの世話だったり、荷物を運んでいたり、と申し訳なく思うが、体が動きそうにない。
暫く経って、ゆっくりと動き始めた俺たちに、氷雨さんが駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?皆さんのお部屋にご案内しますね」
タオルで俺たちの汗を拭いながら、綺麗に微笑んだ。
その笑顔を見て、感謝の言葉すら口にできなくなって、こくりと一度頷いた。
そのまま一つの部屋になだれ込んで、銃を乱射する蛭魔に視線を送る。
「妖一さん、お部屋涼しくなってますよ」
「あ?わかった」
ケルベロスを連れて、あと、氷雨さんも連れて、蛭魔が部屋から出る。
ふと、そちらに視線を向けると、氷雨さんと目が合った。
「お疲れさまでした」
蛭魔から離れて、俺に近づいて、俺の額に手を当てる。
よしよしと、軽く手を動かしにこりと微笑んだ。
ゆっくり休んでね、と手を離した氷雨さんを見つめる。
首を傾げた彼女に、ただ、おやすみ、とだけ声をかけた。