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「カノンか?アイツなら部屋にいる」
げ、仕事渡せないじゃん、と思いながら、どうしようかと悩む。
カノンさんから頼まれた仕事は明日渡すとして、教皇宮に戻るのは、下に降りてアルに頼むか、上に登って、デス、もしくはリアに頼むしかないか。
と考えて、じゃあ、私は行きますね、とサガさんに言う。
彼は、仕事だろう?渡して来るといい、と笑った。
「氷雨の来訪なら、愚弟も喜んで招き入れるだろう」
「…だと、いいんですけど。じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔しますね」
ああ、と微笑んだサガさんに一礼して、彼らの生活区域に移動する。
お邪魔します、と声をかけて、一歩踏み入れた。
「此方だ、」
奥から声が聞こえてきて、そちらに向かう。
正直、彼らの私室に近づいていくのは、前私が誓わされたことに微妙に違反しているような気がしないでもないんだが…。
私の部屋でなければいいのだろうか?謎だ。
まあいい、とカノンさんの私室の前につく。
扉をノックして、暫く経ってから、ちょっと扉を開けて、覗き込んだ。
「…なにやってんだ?いいから入って来い、氷雨」
「お邪魔します」
完璧に、彼のパーソナルスペースだ。
幸いなことに寝室は扉を挟んでいるため、変な緊張はしなくてすむが、それでも、どこか居心地が悪いのは仕方のないことだろう。
とりあえず、仕事を渡そう、と顔を上げて、固まった。
サガさんと同じ眼鏡かけてる。
黒い縁で、耳にかける辺りが半透明な赤。
お洒落なその眼鏡は、見間違えなどでは決してない。
驚きながらも、そのまま仕事を渡した。
「めがね、掛けていらっしゃるんですね」
「ん、あぁ。基本的に目を保護する意味合いだが」
苦笑を浮かべながら、カノンさんは眼鏡を外し、机に置く。
似合わないだろ?と複雑そうな表情をした彼だが、正直そんなことない。
見惚れちゃうくらいには似合ってますよ、とはにかむようにして伝える。
私の言葉に驚いたようにしながら、一度眼鏡に触れる。
どこか照れたように笑うカノンさん。
「ありがとう」
その言葉に何と返そうか、と思っていると、後ろからサガさんの声がかかった。
振り返って、双子のお兄さん見ると、双子の弟と同じ眼鏡をかけていて。
やっぱり、寸分違わず、等しい。
「あの、その眼鏡って、何処で買ったんですか?」
サガさんが顔をのぞかせて、カノンさんと視線を合わせて、二人で固まっているところに、声をかけた。
意図せず…だろうが、二人で声を揃えて、同じ店を答える。
「いつ買ったんですか?」
その答えもまさか、同じ日が返ってくるなんて、私は思ってもいなかった。
…お店の人も混乱しただろうなぁ、なんて思わず笑ってしまう。
「お二人とも、よく似合っていますよ」
私の言葉に何とも言えない顔をした二人だった。