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「お邪魔しますー!」
返事は返ってこなかったが、それでも、入らないわけにはいかない。
折角此処まで連れて来てもらったのだし、その上、彼ら二人のどちらかの力を借りずに教皇宮にまで、帰ることも不可能である。
足を踏み入れ、最初に何度か連れて行ってもらったことのある執務用の部屋を訪れた。
「ん?氷雨?」
「サガさん、頼まれた仕事持ってきました」
ありがとう、と目を細めて笑った彼には、いつもと異なり、眼鏡がかけられている。
…まだ老眼の年齢ではないはずなので、きっと、普通に目が悪いのだろう。
彼の場合、おしゃれ、とは考え難い。
が、中々おしゃれな眼鏡だと思う。
レンズ周りは黒いが、耳にかける部分は半透明の赤で、彼の青い髪とよく似合っている。
「氷雨、紅茶を入れてくれないか」
どうも、君の紅茶がないと仕事がはかどらなくて、と首を傾げる。
私としては構わないが、だったら、執務室に来てくれれば良かったじゃないか、なんて思う。
1つ頷いてから、キッチンを使っても?と笑顔を浮かべた。
勿論だ、と微笑むサガさんに、やっぱり美形だ、と再確認しながら、キッチンに向かう。
サガさんとカノンさんの持ち物の区別はし難いものが多々あるが、彼らの基準で最も違うものと言えば、サガさんは見た目の美しさを、カノンさんは実用性を取る、ということだろうか。
と、言うことも踏まえて、左右できっちり分けられている食器棚を見比べて、美麗なものが多い方から、1つ取り出す。
それから、紅茶を入れて、サガさんの元へ持っていった。
「休憩、しませんか?」
「…ああ、そうしよう」
数回瞬いてから、にこり、笑った彼に紅茶を差し出して、軽く世間話を始める。
仕事ははかどっているかとか、無理していないか、から始まり、アルのいるかわからない恋人の話まで。
サガさんは優しげに目を細めて、ティーカップを、正確には水面を見つめている。
「どうしました?」
「…穏やかだと、思ってな」
彼は呟くように言ったあと、顔を上げて、もう一度笑った。
「以前では考えられない程、穏やかだ。皆も、それから、私も」
その分、問題も増えたが…、と少しだけ困ったように眉を寄せる。
しかし、その顔はどこか嬉しそうで、満足そうでもあった。
それには笑顔で返して、ふと、思い立ったことを聞く。
「あ、カノンさん何処にいるか、わかります?」