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鏡を覗き込んで、髪留めを付け直す。
やはり、これよりも、あちらの方が…と思いながらも、お姉様がくれたこの髪留めがいい、と思った。
アマリリスを象ったこの髪留めは、お姉様からグラード財団の総帥になったときにもらったプレゼントだ。
『誇り』を忘れないで、と。
頑張るさおちゃんは『素晴らしく美しい』から、と。
それから、時々『おしゃべり』しようね、と。
最初カードに書いてあった時は、言葉のまま受け取ったのだが、ひょんなことから花言葉だと知った。
だから、この髪留めは私のお守りであり、私の誓いでもある。
いつか忘れてしまわないように。
「さおちゃん、大丈夫?」
「あっ、はい!お姉様!」
ノックの音が聞こえ、慌てて扉を開く。
と、そこには、七分袖のVネックに、裾の長いベスト、ショートパンツにショートブーツを履いたお姉様。
髪の毛は簡単にバレッタで留めていて、全部を上げていることもあってか、すごく大人っぽい。
元々、私よりも年上で、大人であるのは事実でも、彼女の笑顔はどこか幼くて、可愛らしいのだ。
だからこそ、ふとした拍子の大人には、同性のはずの私までドキドキしてしまう。
「うん、可愛い。あ、その髪留め、使ってくれてるんだ?」
嬉しいな、と破顔した彼女の笑顔は、やはり少し幼くて。
じゃぁ、行こうか、と差し出された手にそっと自分の手を重ねる。
ペンだこができている指に、何とも言えない気持ちが沸き上がってきて、お姉様、と声をかけた。
「ん?」
「…なんでもありません!今日は、何処に連れて行ってくれるんですか?」
「ふふ、そうだなぁ…定番デートコース、かな?」
目を細めて、繋いでいない方の手で、私の頬をくすぐる。
ぎゅ、とお姉様の指に自分の指を絡めて、屋敷の玄関で待っているアイオリアと童虎の元へ向かった。
「今日はリアと童虎さまなんですね。格好いいお二人について来て頂くんですから、頑張らないと」
悪戯っ子のように微笑んで、それから、さり気なく二人の服装を褒める言葉を続けた。
じゃぁ、行きましょうか、と私の手を引いて、ゆっくり歩き始める。
私の後ろに童虎が、お姉様の後ろにアイオリアがついた。
童虎が話し、お姉様が頷きながら、私やアイオリアに話を振りながら歩いた道は、いつもより短い。
最初に向かったのは、映画館だった。
チケット売り場の前で、お姉様は私の顔を覗き込むようにして、綺麗な笑顔を浮かべる。
「さおちゃんは、ファンタジー嫌いじゃなかったよね?」
「はい!」