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勝手に開かれた扉の前にデフテロスさんが立っている。
少し不安そうに私を見つめて、手を伸ばしてきた。
ゆっくり、私の髪を撫で、頬に手を当ててくる。
「紅茶、飲まないですか?」
「貰う、が」
と首を振り、紅茶の乗ったお盆をマニゴルドさんに手渡して、唐突に抱きしめてきた。
体が動かなくなり、ついでに、デフテロスさんで視界がいっぱいになる。
「えっと、でふ、てろす、さん?」
「氷雨、」
「お姉様!」
聞いたことのある声が、デフテロスさんの後ろから聞こえた。
サーシャちゃんと似ているけど、違う声。
もしかして、と思うのだが、デフテロスさんが離してくれそうにない。
「えっと、デフテロスさん、」
「頼む、から…」
小さく聞こえた声に首を傾げながら、彼の背中に手を伸ばす。
ぽんぽん、と背を叩いて、それから、拘束の緩んだ彼の手から抜け出した。
「お姉様!」
「やっぱり、さおちゃんだったね」
丸い、まるで窓のようになった向こうに、さおちゃんと皆さんがいる。
サガさんとカノンさんが怪我をしているのが少し心配だが、さおちゃんが早口に告げた。
二人の女神の力によって、時空をつなげているらしい。
それから、私が異次元に飛ばされたのは、サガさんとカノンさんの技のぶつかりに巻き込まれたとか。
私がさおちゃんから貰ったブレスレットをしていたから、無事でいられて、また見つけられたらしい。
最後に、繋いでいられる時間は長くないようで、今すぐ決めて欲しいと、いわれた。
「氷雨、」
デフテロスさんに名前を呼ばれる。
振り向けば、泣きそうに眉を下げた彼が何かを言いたげに、私を見ていた。