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「始末つけて来い」
「おい、待て一輝!」
「氷雨さんを返して兄さん!!」
なんて、会話があったが、私の耳にはほとんど入ってこなかった。
人通りが少ないところで、やっと、降ろしてもらえて、何となく、状況が理解できた。
「…一応、ありがとう」
「不満そうだな?」
そりゃ、公衆の面前でお姫様抱っことかされたらそうなるでしょうよ。
と思いつつも、吃驚しちゃってね、と返す。
納得していないだろうが、そうか、とだけ静かに答えた一輝君。
柔らかな風が吹き、思わず口を噤む。
さわさわと木々の葉がこすれる音に耳を傾けた。
「氷雨、」
「ん?どうしたの?」
「氷雨さん!」
「あれ、氷河君、よく此処がわかったね?」
「貴女を想う心が場所を教えてくれたんです」
穏やかに笑った氷河君は時折、こういうことを言う。
はいはい、と軽く流す振りをして、赤くなりそうな頬を隠した。
「かき氷、奢って上げるよ」
そこで、と近くのかき氷の屋台を指差す。
氷河君が、俺も一緒に行きます、と告げて、一輝君に何味が良いか確認していた。
私はいちご味、氷河君はブルーハワイ、一輝君はメロンを買って、一輝君の元に帰る。
…と案の定、と言うべきか、20歳代くらいのお姉さんが、一輝君を誘惑していた。
どうしようか、と氷河君を見れば、彼は一輝なら自分でどうにか出来ますよ、とかき氷を口に含んだ。
「氷雨さん、あーん」
「え?あ、ありがとう」
差し出されたブルーハワイ味を口に含んで冷たさに目を細める。
美味しいなぁ、なんて思いながら、もう一度一輝君の方を見れば、丁度此方に向かってくるところだった。
おお、本当に自分でなんとか出来るんだ、とメロン味のかき氷を手渡す。
その冷えた手を、氷河君にこっそり近づいていた星矢君にぺたりとつけて、後の二人は?と聞く。
「ひでぇよ、氷雨さん…。あの二人ならほら、そっち側」
え?と反対側を見ると、丁度そちらに花火があがった。
おぉ、綺麗だ…久しぶりに見たなーと見惚れる。
色とりどりの花火の途中でふと思い出して、一輝君に聞いた。
「何言おうとしてたの?」
「…さぁ、なんだったかな」
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あとがき
前サイトで、那々さまに捧げたものです。