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「眼鏡、外してくれない、かな?」
「氷雨さんの、ですか?」
紫龍の驚いた言葉にうん、と声だけで頷いて、だめかな、と眉を寄せる。
いえ、と返して、膝をつき、目線を合わせた。
ありがとう、と目を伏せる氷雨を見つめながら、そっと手を伸ばす。
眼鏡に触れて、優しく抜き取った。
ゆっくり目を開いて、ありがとうと笑う彼女から目を逸らしていえ、と返す。
外した眼鏡をどうするか、と聞けば、その辺おいておいて、と言う答える彼女。
なら、と既に目を伏せて動く気が皆無の一輝の横において、紫龍は氷河側の足元に座り込んだ。
片膝を立てて、ソファーに寄りかかるが、高さが低いため、体勢がきつそうだ。
「紫龍君、私の足でよければ使って?」
見上げた紫龍にひとつ頷いて、どうぞ、と声をかける。
手を彼女の足に乗せ、その上に頭を置いた。
その髪をふわり、空いている方の手でそっと撫でて、お休みと声をかける氷雨。
「ありがとう、」
小さく笑って、目を伏せた紫龍は呼吸を整える。
よく、見知った気配を感じたのが一番の理由だろう。
最後に来た星矢は諦めたようにため息を吐いた。
「氷雨さん、大丈夫かい?」
「ごめん、星矢君。ブランケット持ってきてもらえる?」
申し訳なさそうな声に肩を竦めて、踵を返す星矢。
彼は途中、子供たちに文句を言われながら予想以上に時間をかけて、その場に帰ってきた。
頑張った彼が見たのは、氷雨すらも寝たその状態。
「氷雨ねっ」
「しーっ、」
大きな声で入ってきた子に慌てて静かにするように告げる星矢。
入ってきた子はその状況に気がついたのか、自分の口を自分の手で押さえた。
「ごめん、星矢兄ちゃん」
「いや、いいけど、どうした?」
「あのね、氷雨姉ちゃんの知り合いって男の人が来たの」
報告をして、どうすればいい?と首を傾げたその子に星矢は俺が行くよ、と苦笑した。
持ってきたブランケットを適当に4人に掛けて、行くぞ、と声をかける。
「氷雨さんは頼んだぞ」
狸寝入りの4人に声をかけ、一人、男に対峙する星矢。
「氷雨さんに何の用だよ?」
「仕事の話があってね」
にこり、笑う男に、今日は氷雨さん休みだぜ?と鼻で笑う。
それから、今日は俺たちと子供たちが独占する約束だ、と先ほどいた部屋の扉を開ける。
「寝てる氷雨さんを起こすくらいなら、今隣の邸にいる沙織さんに話したらどうだ?」
む、とした彼は背を向けて、星の子を出ていく。
知らない人の気配に気がついたのか、彼女が、ん?と声をあげた。
「何でもないよ」
星矢は告げて、氷河と瞬の間に背を向けて入り、自らも目を伏せた。