【1】

その日は朝から何だか頭が重かった。
有元春。
それが彼女の名前だ。
どこにでもいる高校生。4月から3年になり、塾にも通い始めた。

「ねえ、春ってば!どうしたの今日は。ずっとぼんやりしてるよ?」
春の顔を覗き込みながら聞いたのは親友の友里恵。中学からの付き合いだ。

「あ、ああごめん。何だっけ?」
「もう。あのニュースだよ、最近多い……」
「あっ、あれでしょ、人を殺して心臓までとるってやつ……」
「そうそう。信じらんないよね、そんなことするなんて。でもまあ、この辺じゃないし……って春!ほんとに今日はどうしたの?」
「うーん、なんか頭が重くて。具合が悪いわけじゃないんだけど……。今さら5月病かなあ」
「春らしくもない。ほんとに体調悪いんじゃないんだね?」
「大丈夫、大丈夫。あっ、先生来た!またあとでね!」


「やばい……気力を吸い取られた気がする……」

21時30分。
塾の授業が終わると春は机に突っ伏して力無く言った。高い位置で結んだポニーテールも元気がない。
数学は苦手だ。それがわかっているから塾に通っているが、苦手で嫌いな科目にはやる気も出ないというものである。

「いつまでそうやってるのよ、みんな帰っちゃうよ?」
そう言った友理恵も、もう帰り支度を整えている。

「お腹すいたし、ほら帰るよっ!」
友理恵が急かすと、春は伸びをしてノートを片付けて立ち上がった。


「…うーわ、雨降ってるし。」

塾の建物の入口まで来た2人は降りしきる雨を見て憂鬱そうなそぶりを見せると、めいめい鞄の中から折りたたみ傘を取り出した。

「じゃあまた明日、学校でね!」
「うん、バイバイ」

友理恵は左へ、春は右へと歩き出した。


しばらく歩いていると、春は朝から感じていた頭の重さがどんどん増してきたように思った。
おまけに何故だろう。別に眠いわけでもないのにまぶたが下がってくる。

――あれ、ほんと今日どうしたん……――

思考は途中で途絶えた。


有元春はいきなり、土砂降りの中道端に倒れた。



***



「オーラを感知しました!」

機械の画面を見ていたオペレータらしい女性が報告する。
それを聞いた別の女性――かなり地位は高そうだ――が緊張した面持ちで通達を出した。

「最寄りの事務所に連絡。至急保護しなさい。」



春が倒れている、その横に一台の車が停車した。
もちろん排気ガスなど出さない車だ。少し、宙に浮いている。

その車から男が降りてきた。
春の様子を確認すると、自分が濡れるのも構わずわざわざ膝を付いて春を優しく抱き上げ、そのまま車へと戻った。

音もなく発車した車の中で、男は少しためらいつつも春の鞄から携帯電話を取り出すと、自分の鞄から何かの機械を取り出して春の携帯電話に繋いだ。

少し操作をするとすぐに春の住所・氏名・年齢が表示された。

男は自分の電話でそれをどこかへ伝えた。


車は市街地へと入って行った。

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