◆第4章◆



盗賊と言うにはいささか立派過ぎるその集団。

きちんと統率のとられた彼らの動きは、いわゆる『流れ者の寄せ集め』を思わせない。


そう。彼らの大部分は流れ者ではない。
元は傭兵や、一国に使えた騎士達が、様々な理由により生活の術を失い、その結果として略奪に生きるようになったのだ。


「だから、ここを通るのは嫌だったんだよ…!」

レイが苦々しく呟いた。

この辺りが隊商や旅人に恐れられるのは、ただ盗賊が多いと言う理由だけではない。『統率のとれた』盗賊が特に多いのだ。



盗賊団の指導者らしい男が剣を抜き、高々と掲げた。太陽の光を浴びて、きらりとその刃が光る。それが合図だったのだろう、盗賊達は2手に分かれた。挟み打ちにしようというのだ。


「見せてあげるわ。カルデナルの傭兵ってやつをね…!」
それを見たジュリアが呟いた。

それとほぼ同時に、1番前を駆けていた盗賊の1人がのけ反るようにして落馬した。そのまま、動かない。
クラウスが、銃を放ったのだ。

そうやって何人かの盗賊達が同じ末路を辿ったとき、遂に隊商と盗賊はぶつかった。




攻撃は最大の防御という。隊商が止まらなかったのは、ひとえに最大の攻撃でもって盗賊を迎え撃ったからに他ならない。

怒号、剣戟、埃混じりの風。
その風はジュリア達の顔に吹き付け、視界を遮ることとなった。主に耳を頼りに、ジュリアは何人もの敵を切った。剣を通して伝わる、何度経験しても決して慣れることのない感触によって、ジュリアは自分が護衛としての役割を全うしていることを改めて認識した。


他の仲間達も、それぞれが護衛――というよりもむしろ自分の命を守るために懸命に戦っているのが時折見えた。



暫くすると、馬の蹄が捉らえる地面の様子が変化してきたのが伝わってきた。

今までは砂が多く、足を取られるような柔らかさだったものが、少しづつ固くなってきている。
これはよい兆候だった。そろそろ、この盗賊達のテリトリーも終わる。

そして、(これは盗賊にも言えることだが、)砂が少なくなってきた分、視界もよくなってきた。


それを油断と、そう呼ぶだろうか。

戦いのさ中、ジュリアがふと周りを見回したとき、突然背後に殺気を感じた。

振り向く間もないほど、近かった。

背筋が、凍り付いた。



と、次の瞬間、ふっと殺気が消えた。
ジュリアに今にも切り掛かろうとしていた盗賊の目は見開かれ、そしてすぐ虚ろになり、そのまま、倒れた。

背中には、短剣が深々と刺さっていた。


エリオットもレイもサラも、短剣をこんな風には使わない。クラウスも、こんな短剣は持っていない。

――だ…誰が……――


「ジュリア!ぼーっとしないで!まだ終わってはいないわ!」


それは、シルヴィアだった。
盗賊の背にあるのと同じ短剣を構えている。その目付きは鋭く、身のこなしは場慣れしていることを感じさせた。
ジュリアも戦いの中に身を置くことが多い。だからこそひしひしと感じた。
シルヴィアは相当な使い手である、と。


「見えた!カルデナルの都だ!」

クラウスが声を張り上げた。砂ぼこりでかすむ道、その向こうにぼんやりと見覚えのある街のシルエット。
クラウスの眼には、それは見えた。そして、口調には希望がうかがえた。

カルデナルの王都・カルディアは傭兵が集う都。盗賊に追われている同業者を助けに来るであろうことは必至だった。
現にクラウス達も、助けに行ったことがある。


盗賊の頭にも、街が見えたのだろう。あるいはその正確な土地勘で街が近いと感じ取ったのだろう。
馬の速度を緩め、そして、叫んだ。

「引くぞ!!」


一斉に、盗賊の動きが変わる。誰もさらに攻撃しようとはしない。
この全員に行き届いた規律が、この地を通るものを脅かす盗賊を生むのだろう。

彼らの動きは迅く、そして整然としていた。
巧みに陣形を変え、追っ手を付かせない。そもそも、追ってこないことはわかっている。
盗賊の討伐部隊ならばともかく、傭兵や隊商にとって最も大切なのは被護衛者の命と商品なのだから。

案の定、エリオットが叫んだ。

「深追いするな!こっちを守るのが優先だ!」



ぼんやりとしたシルエットでしかなかった街が、現実感を伴って近づいてくる。赤レンガでできた外壁、家々、そして城。

砂漠を見張るかのように重々しく鎮座した、カルデナル王国の都。
それは昼の太陽の光を受けて、夕日のように輝いた。


都の門が、開いた。

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