花火


「真太郎早く!運動部のクセに遅い!」

「こんな人混みで走れという方が無理なのだよ…それに、花火は逃げん」

「でも待ってはくれません!ほら、早く!」

「なっ…お、おい!蛍!!」



屋台と屋台に挟まれた小道を幾多ものヒトが流れていく中
蛍は緑間を急かして彼の手を取り、また先を急いだ



「そういえば…高尾君たちは?来なかったんだ」

「追い払ったのだよ」

「はい!?何でまた……」

「アイツらが来たら冷やかされるのは目に見えているだろう?だから途中で撒いてきた」

「あ、あぁー……アハハハ」



早足で人波を掻き分けて進む中、蛍は高尾らをフォローする言葉を探したが
緑間の言うことが的を射すぎていて見つからず、苦笑するしかなかった


それからポツポツと会話を続けながらどんどん境内の奥へと入っていくと
流石に彼ら2人以外に人の姿は見られなかい



「で、どうですか?一年目の学校は」

「…何なのだよ、急に……」

「そりゃあさ、たまには先輩っぽいこと言わないと示しがつかない気がしてですね…」

「別に…特に変わったことなど無い」

「部活は?やっぱり大変?」

「あぁ」

「大会は惜しかったね」

「あぁ…」

「でも格好良かったよ」

「……先輩というより、これじゃ親と子の会話なのだよ…」

「あら、本当…」



緑間が呆れ気味にハァ…とため息を吐いた時
ドンッという音が突然耳に飛び込んできて

揃って空を見上げると、赤い花火が大きく咲いた



「おー…やっぱり今年も綺麗だなぁ…」

「……………」

「えぇ?真太郎君、ご感想はないのかしら?」

「…穴場スポット、ということか…」

「ピンポーン!ただ崖が切り立ってて危ないからあんまり来ないけどね、真太郎を連れてきたのが初めてかな」

「…………」



そう自慢気に胸を張る蛍だったが、隣に突っ立っている緑間は無言のまま
次々と打ち上がる祭の花火を眺めていて

彼女が顔を下からのぞき込むようにしても
何の反応もない



「おーい」

「…………」

「もしもーし…」

「…………」

「…“なのだよ星人”さん」

「だからなんなのだよ!その呼び方は!!」

「聞こえてるんじゃないですか。何考えてたの?」



やっと応答があったのだが、緑間の視線はまた空に咲く花火へと戻ってしまい
なかなかこちらと顔を合わせようとしてくれない

そこで蛍は緑間の袖をクイクイと引っ張ると、緑間は口をようやく開いた



「ただ…な」

「ただ?」

「正直花火等どこでどのようにみようと変わりはないと思っていたが」

「花火師さんに謝りなさい」

「“思っていたが”と言っているのだよ!」



今日の花が、やけに綺麗に



「今日は蛍と見ているから違う、と言いたかったのだよ」

「……し、真太郎がやけに素直!ってか何!?私明日死ぬの?」

「大真面目なのだよ!茶化すな!」

「あ、緑色の花火上がった。良かったねー、真太郎ー」

「子供扱いもやめるのだよ!!」

2012/08/08

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