浴衣姿


「はあ?ま、祭……?」

「うん。ほら、学校の最寄り駅のトコで…17時からって」



ヒラヒラと夏祭りの案内と書かれたチラシを出しながら
蛍はシェーキを一口飲む


場所はマジバ。窓の外はもう暗くなってしまっているが、客はそこそこ入っていて
蛍と笠松は2人掛けの席に向かい合っていた



「あれ…お祭みたいなやかましいの嫌い…だったっけ?」

「いや別に…嫌いじゃねーけど……」

「部活の帰りはやっぱり疲れる…とか?」

「あ、あぁ…そ、そう…だな」

「…何どもってんの?」



この話を持ち掛けるまではいつも通りに会話していたはずなのだが
“夏祭り”というワードを見た途端に急にしどろもどろになる笠松

そんな彼に首を傾げながら蛍はポテトをパクリと口に含む


対して笠松は気を紛らわすかのように飲み物に口をつけた



「夏祭りか……」

「うん。屋台と花火と浴衣」

「……浴衣なぁ…」

「何よ、うじうじうじうじ…女々しい」

「別にうじうじしてる訳じゃねぇよ!」

「してるでしょ、シバくぞコラ」

「てっ…足蹴んな!」

「誰かさんのマネー」



そんな調子でケラケラと笑う蛍だが、依然笠松はこちらと目を合わせようとせず

眉間のシワを深くするばかりだった


そこで蛍自身も夏祭りのチラシを見て、一体何が彼の気がかりになっているのかを考えてみる

そしてあることに気付いた



「あ」

「あ?」

「夏祭りって女の子いっぱい来るからね〜…」

「っ…!」

「ホント…ある意味こういう時って森山が羨ましいでしょ?」

「ア、アイツのことはいいだろ…」

「はいはい。そっかー…どっちかってーと女子率の方が高いもんね…」

「………」


じゃあ無理かなー……


と、別に残念そうにする素振りもなく
何ともあっさりした風に蛍はチラシをテーブルに置いて
またパクリとポテトを食べる

そんな彼女の様子をジッ…と見ていたのは笠松だが、またそのチラシに視線を移して
ハァ…と短くため息を吐いた



「何?」

「いや、別に祭くらいは…なんとかなるんだよ」

「え、そうなの?ってそうか…去年は森山たちと行ったもんね」

「あぁ。ただな…その………」

「……何?」

「蛍は…ゆ、浴衣とか着ねぇーのか。って…」

「“浴衣”?あ、着れるのは確かにあるけど…学校の帰りなんだしそのまま制服で良いんじゃないかなー…と」

「…………」

「…え、それが何か…問題、かしら?」

「…、問題大アリだろ」

「なぬ!?え…な、何が…」

「もし浴衣着んなら、絶対森山とか黄瀬に見せんじゃねぇぞ。ってことだよ」

「……え?」

「だから…!」



浴衣姿は、2人だけで



「……ははぁ、なるほど。幸男君には独占欲なるものが存在していた訳でありますか」

「どっ…あ、あるに決まってんだろ!!」

「でも今回は制服で行こうって言ってんじゃん」

「制服でもアイツらと同行だろ?メンドくせぇーぞ…」

「あぁー…うん、また今度。別のとこにしよっか」

2012/08/07

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