お祭り道中


「………」

「………」

「何してるの?康次郎」

「蛍こそ、こんな所で何をしてるんだ?」

「えっと…まぁ、見るからに…」


お祭りを楽しんでますよね。



食べかけのリンゴ飴を持ったまま、蛍はそう答える

地元で開かれた夏祭りに1人来ていた彼女は境内の御神木の前で古橋という男を見つけた



「何だ、俺に声を掛けてくれなかったのか?」

「いや…部活で疲れてるかなって思って……小さい祭りだし」

「浴衣は?」

「小さい頃のしか家にないから普通に私服だけど…ほら、1人だし。っていうかさ…康次郎」

「ん?」

「それ…どうしたの?」


ネコ


何故、2人がこんなにごった返す人混みの中で互いを見つけられたかというと
まず蛍が古橋を見つけたのだ

御神木の周りはあまり人がおらず、彼だけ1人がその前にしゃがみ込んで
何かをしているのを見かけ、声をかける前に向こうもこちらに気付いたのだが



「野良猫だ」

「いや、見りゃわかるって。どしたのそれ」

「………、ここにいた」

「じゃあ質問を変えよう。何でそんなに懐いてんの!?野良って今言ったよね!!」

「あぁ、昔飼ってたから…じゃないか?」

「いや、私に聞かないでよ」



ゴロゴロと喉を鳴らす猫に古橋は無表情のまま喉や頭を撫でていき
野良猫という割にはすっかり彼に懐いてしまっているようだった


蛍も彼の隣にしゃがんで猫をうりうりと撫でると
猫は気持ちよさそうに目を細める



「うわー…何か人慣れしてない?コイツ」

「さあな」

「うらうら、可愛いなコノヤロー」

「………」

「あれ、そういえば康次郎の家ってペットOKだったっけ?」

「…いや、前に住んでた家は良かったんだが……」

「へー…」

「……………」

「……………」

「………なぁ、蛍…このネ」

「うち、マンション」

「…そうだったな……」

「……………」



何故、いつもは生気が感じられない彼の目が憂いの類を帯びている様に見えるのか
何故、いつまでもそこから離れようとしないのか

何故、…



「ネコ缶?え、つか何。常備してんの?」

「たまたまだ」

「どんな都合の良いたまたま!?いやいや、てか餌付けダメ!」

「…………」

「っ〜…」



猫が口を付けてしまう前に缶をパッと没収すると
2人(1人と1匹)はそろって明らかに落ち込んだ様子が見受けられ

蛍は何故か罪悪感に駆られてしまう


そして、食べかけだったリンゴ飴の飴がポタリと手に滴を垂らした時



「…マンションだけど、ペットOKだから……飼いますか…」

「本当か?」

「嘘言ってどーすんのよ…はいネコ缶」

「…あぁ」



そう言って、没収した缶を渡すと古橋は一瞬動作を止めてから
またすぐに猫に缶を与える

初めは少し警戒するも、次にはバクバクと食べ出したところ腹を空かせていたのか
あっという間に完食してしまった



「………蛍」

「んー?」

「…すまない」

「……。別に良いって、ネコ可愛いしね」



ペロリと口元を舐める猫を眺める古橋の横顔を見て



(こんだけ無表情なのに…なんとなーく康次郎の考えがわかるようになってきた所……)


やっぱり恋人なんだなぁ…と、

蛍はぼんやり考えた



お祭り中、拾い猫



「ところで、康次郎なんで祭り(ココ)に来てたの?花宮君たちと?」

「いや…それは……」

「それは?なに、言いにくいの?」

「…………」

「……?」

「蛍が週末に祭に行くという情報を聞いてもしナンパでもされたら大変だなと思って、それで…」

「うんうん、それで?」

「コイツ(猫)を発見して、今に至る」

「私、ネコ以下ですか」

「…………」

「否定しろ!!」

2012/08/07

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