浴衣


「ぅわっ…!」

「お、大丈夫か?」

「だ、大丈夫…」



ドンッ、と人とすれ違う時に体を接触させてしまいよろけた蛍だったが
前を歩く木吉はすぐに彼女を受け止めた



「流石に…人多いね……」

「そうか?毎年これくらいは普通なんだけどな…」

「私はあんまりお祭りに来ないから、かな?」

「かもな」



赤い提灯(チョウチン)に左右に並ぶ屋台の列、行き交う人々

蛍と木吉は地元の夏祭りに来ていた

誘いは家がすぐ近くにある木吉からで、


「蛍は浴衣とか持ってないのか?」

「え、浴衣?…どうだろう、あるにはあるけど着れるかな……」

「よし。じゃあ浴衣で行こう!な!」

「え!?私まだ着れるって確定したわけじゃっ…」


そのままの流れで、夏祭り浴衣デートが決行されてしまった


しかし、



(ちょっと無理して久しぶりに浴衣着てるけど…鉄平の浴衣姿見れたし、こうやって…)



はぐれないように、と手を繋いでくれている


早すぎない歩く速度とソッと握られているその手とに
どこかくすぐったくなる気分になりつつも

あれにしようこれにしようと楽しそうにする木吉の背中にも思わず頬が緩んだ



(……って、あれ!?)

「どうかしたか?」

「えっ、あ…いや……」

「?………あ、」



だが、フとあることに気付いて繋がれた手からそれが伝わってしまったように
木吉はピタリと足を止める

蛍が何でもない、と言う前に
そのまま道から少し外れた



「鼻緒が切れてるな…」

「う、ん…多分さっき躓いた時に…かな」

「少し擦れてるし…痛かったろ?」

「全然っ!痛くなんかないし、鼻緒は切れちゃったけど、まだ…」

「蛍」

「へ?」



まだ大丈夫、と言う前に、また言葉を遮られたかと思うと
突然グンと自分の目線が高くなった

それから下駄を脱がされて、木吉が片手で持ってしまう



「って、て…鉄平!?お、下ろして!」

「ダメだ。今日はもう帰ろう」

「で、でも…まだお祭りが……」

「祭りなんていつでも来れる。けど、蛍が怪我してちゃ…何の意味もない」

「………」

「ゴメンな、俺が無理言っちまったし…気付かなかったから…」



彼の背に負ぶられながら、人波に逆らって歩いていく
家が近くてよかったな、等と笑ってはくれたが

蛍はただただ申し訳ない気持ちでいっぱいになった


そして祭の会場からしばらく離れた所、木吉の家の近くで
蛍はその彼の広い肩にトンッと額を当てて、ゆっくりと口を開く



「鉄平、ゴメンね」

「だから、蛍は悪くないから、気にするな」

「うん…ありがとう……。また、さ」

「ん?」



来年もまた、アナタと浴を着て



「そういえば、鉄平ってやっぱり和服っていうの?似合ってるよね」

「ん?やっぱり…?」

「イメージ通りっていうのかな…カッコいいなって」

「そうか?蛍の浴衣姿も可愛いけどな」

「そ、そそ…そんなことないよ…!あ、重いよね、私!下りるよ」

「いや別に重くないし…」

「ない、し…?」

「もうちょっとこのままが良い」

20120/08/04

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